比婆山駅の扁額

扁額といっていいのか分からないけど、駅の入り口頭上にある駅名を書いた看板。駅名標でもないし…何と呼べばいいんだろう?ずっと寝かしていたネタをやります。

比婆山駅

去年の4月29日、26日から山口に住む楠くん宅へお邪魔していた最終日の29日に車で芸備線や木次線を巡ろうと朝から走っていた。そして、比婆山駅で小休止。そのときの模様はこちら

駅名扁額

鉄道ファンの間では有名なこの扁額?看板?ただ駅名を書いているだけではなく、どこかの駅にあった時刻表を上からペンキを塗って再利用している。でも、それが剥げて時刻が見えるようになっているのだ。

そうでなくても面白いネタなのに、見たところかなり古そうだ。これは調べない手はない。幸い古い時刻表ならまだまだ穴だらけではあるけどある程度は揃えている。ちょうどビンゴの改正のものを持っていればラッキーだ。比婆山は備後国にありますからね。なければ該当するダイヤ改正の時刻表を探して買えばいい。その分、投稿は遅れますが。

まず見て分かったこと。下り列車は判読が難しいけど、これは山陽本線のものであること。しかも、特急、急行が数多く停車していること。ここにある時刻は到着時刻であること。駅名は始発駅であり、九州や山口、広島県がほとんどであること。でも、残念ながら終着駅までは掲載されていない。下り限定だけど、記事欄に「宇野行き」の文字が見えること。下り時刻表を見ると三石始発が、上りには倉敷始発があること。以上から岡山駅ではないかと推察できる。

また、掲載されている列車を見ると等級制が採られており、それも3等級制ではなく2等級制であること。特別急行「かもめ」が走っていて、上りの始発駅が博多となっていること。それにしても、特別急行という響きがいい。

これでほぼ年代は限定されてくる。1等車が廃止され、2等級制となったのは1等展望車を連結していた特急「つばめ」、「はと」が電車化された1960(昭和35)年6月1日以降であり、また特急「かもめ」の上りが博多発だったのは、京都-博多間を走っていた客車時代のことで、これは1961(昭和36)年9月30日までの運行だった。つまり、この間に行われたダイヤ改正ということになる。5年くらい幅があれば骨が折れるなと思ったけど、このくらいの間隔ならなんとかなりそう。それはすなわち1等車廃止の1960(昭和35)年6月(制度上は7月1日から)、同年10月の小規模改正、1961(昭和36)年3月の全国ダイヤ改正のいずれかということになる。

さて、私の手持ちの時刻表のうち、この期間で持っているのはあるかと見てみると1961(昭和36)年9月のみが該当した。ギリギリセーフだ。その前だと1959(昭和34)年7月、その後が1961(昭和36)年10月で1960(昭和35)年のものは1冊も持っていなかった。小規模のはともかく1960(昭和35)年6月くらいはほしいところだ。さて、この虎の子?の1冊が件の時刻表と合致するのか?ワクワクする。

ところで、こういう調査をした人がいるのかと思い、ネットで調べてみた。検索すると画像はたくさん上がってくる。でも、その内容を見ると、古い時刻表を再利用しているとか、ユニークだとかというのが多く、踏み込んでもある程度年代を絞ったもの、岡山駅だろうと推測したものまでだった。で、私なりに調べていくと上り列車で倉敷始発の「電車」と書かれた列車が3本あることに気付いた。そういう列車が走っていそうなダイヤ改正はというと、山陽本線の上郡-倉敷電化および宇野線電化が行われた昭和35年10月ダイヤ改正以降かと思われる。また、昭和36年3月改正は山陽本線は対象外なので、この岡山駅の時刻表に関しては昭和35年10月改正と断定してもいいだろう。扁額と手持ちの1961年9月号と見比べてみたところ、全ての列車が合っていた。

時刻表1961(昭和36)9月号

これが件の時刻表。120円という値段が時代を感じさせる。日本国有鉄道監修、いいですね。

圧巻

下り時刻表の一部。寝台特急「さくら」、「あさかぜ」、「はやぶさ」はともに20系で運転され、食堂車は特急だけではなく、佐世保行きの急行「西海」にも連結されている。で、寝台特急の列車番号が5、7、9(上りは6、8、10)となっているのは発車順なのだけど、昭和35年6月まで運転されていた客車の特急「つばめ」と「はと」は1、3(上りは2、4)で、朝の9時に出ていた「つばめ」から順に列車番号が付されていた。「つばめ」、「はと」の電車化で浮いた1~4の列車番号は別の列車に付されたわけではなく、1年以上だったこの時点でも欠番のままだった。が、翌月の昭和36年10月の白紙ダイヤ改正で欠番が解消され、3つの寝台特急の列車番号は1、3、5(上りは2、4、6)に改められた。

各地からやってくる

同じく上り。特急「かもめ」は最後の昼行客車特急。「つばめ」や「はと」のような展望車は連結されずじまいだったけど、翌月のダイヤ改正でキハ82系による京都-長崎・宮崎間特急に生まれ変わり、それぞれの編成に食堂車を組み込んだ、今では考えられない豪華なものとなった。また、門司発東京行き普通列車と言うのも見えるが、これはダイヤ改正で姫路で列車が分けられてしまう。あと、四国の人間としては準急「鷲羽」があるのはたいへんうれしい。ダイヤ改正では宇野線初の特急「富士」と「うずしお」が登場する。そういう大きな動きのあるダイヤ改正前夜の時刻表ということで貴重です。

で、扁額を元に作成したのがこれ。赤字は解読不能なので時刻表から補足したもの。また、上りの左端に23時48分着があるけど、これは扁額にはなかったので付け足した。

駅名扁額は当たり前だけど、車移動もしくは列車から降りて改札を出ないと見ることができない。比婆山は芸備線の備後落合のひと駅広島寄りの駅なので、一たび降りれば次の列車までかなり待たなければならないという事情もあるので、もし前から知っていたとしても降りていたかどうか。しかも、駅前に商店が1軒あるだけなので数時間過ごせる忍耐力があるかどうか。でも、案外楽しめるのかもしれない。

今回はこんなところで。