令和7年大相撲九州場所まとめ その1
少し遅くなりましたが、九州場所のことを書きます。
11月23日、大相撲九州場所が終わり、新関脇の安青錦が12勝3敗で初優勝した。千秋楽後に審判部より臨時理事会の招集が要請され、26日に開かれた番付編成会議と臨時理事会で満場一致で大関昇進が決まった。本来なら三役三場所33勝が目安だけど、安青錦の場合、ここまで筆頭11勝、小結11勝、関脇12勝できている。これまでの実績からして、過去の慣習を度外視した決定は当然だろう。過去にも1回目の照ノ富士と栃ノ心が平幕1場所、三役2場所での3場所で大関に昇進しているから問題ないだろう。
安青錦は多くの人が指摘するように体が起きない、前へ落ちない、攻められても下がらない、前傾姿勢を保った姿勢など何より安定感が抜群だった。これは何も今場所に限ったことではなく、入幕以来一貫している。また、前さばきがよく、小技もできる。勝負所を心得ている。時折り見せる内無双や土俵際での渡し込みなどは正にそうで、タイミングを間違えると失敗する典型だろう。
記録もすごい。初土俵からわずか14場所での大関昇進は史上最速、入幕から6場所目での大関というのも最速だ。これまでの最速が大鵬の入幕7場所目での新大関だったのを塗り替えた。大鵬は1960(昭和35)年初場所で新入幕、その年の九州で大関昇進を決めたというのは、小学生の頃からそういう本を読んでいたので覚えていたが、まさかをそれを抜くとは。大鵬との一場所の差は、大鵬は入幕2場所目で負け越しているから。安青錦は入幕以来5場所すべてで2桁勝ち星を挙げ、三賞を受賞しているが、これも初めてで今後も現れないのではないか。殊勲1,敢闘2、技能3とすべて受賞しているのも安定した相撲が取れていることの表れだろう。
ただ、盤石かというとそうでもない。今場所3敗したが、変化をまんまと喰った若隆景戦はともかく、義ノ富士戦と大の里戦は同じような負け方だった。立ち合いの圧力で体を起こされ、体勢を立て直す間もなく押し出されている。いずれも体が大きく、前へ出る圧力が強く、休まず攻める力士だ。体が大きい力士はたくさんいるけど、プラス攻めが速い、圧力の強い力士となると限られる。課題があるとすれば、これくらいか。ともあれ、来年中に横綱になりそうな勢いだ。あるいは名古屋辺りで綱を張っているかもしれない。とすれば、大関所要3場所、あり得ない話ではない。
そろそろ他の力士を上から見ていこう。
横綱は東の大の里は先頭を走っていた13日目の安青錦戦で勝ったものの左肩を脱臼していて、14日目の琴櫻戦は当然ながら精彩を欠いて敗れると千秋楽に休場、不本意な結果に終わった。こればかりは仕方がない。安青錦戦で押し出したものの、ばったり土俵に落ちた際に傷めたのだろう。こればかりはなんともできないので、じっくり治して初場所に備えてほしい。でも、ちょっと気になったのは中盤で宇良や玉鷲に苦戦していたことだ。やりにくそうだった。10日目の義ノ富士では簡単に引いてしまった。翌日の隆の勝戦ではつんのめったところを逆に引かれて土俵に落ちた。10月にロンドン公演があったから調整が難しいと話していたが、後半にかけてだんだん疲れが出てきたのかもしれない。
西の豊昇龍は初日に不用意な張り差しで伯桜鵬に完敗、6日目には変化で若元春に敗れ、また前半戦で金星を配給してしまう。それ以降は相撲が安定して勝ち星を重ねていく。すると、全勝の大の里が連敗してトップに並んだ。と思ったら14日目に安青錦に敗れ、大の里も琴櫻に敗れ、安青錦の3人が3敗で並ぶ展開。しかも、千秋楽に大の里休場で不戦勝、最低でも安青錦との決定戦という有利な状況になったが、その決定戦で本割で3敗を守った安青錦に敗れてまたも優勝を逃してしまった。安青錦にはこの決定戦も含めて4戦4敗。体格は一回り小さいし、持ち前のスピードをもってしても付いて来られるのでなかなか勝機を見いだせないでいる。横綱になって5場所経過したけど、未だ優勝がない。でも、今場所後半のような相撲が取れれば、もっとよくなるのではないか。1年前にも同じようなことを書いたと思う。琴櫻との優勝争いをする中で、前へ出る相撲が多く、いつもの強引な投げがほとんど見られなかった。そのときの相撲を思い出したのかもしれない。これはいい傾向なので、来場所もこういった相撲を見せてほしい。
大関の琴櫻は先場所の怪我の影響で前半戦は星が伸びず、負け越すかと思われたが、後半戦で5連勝したこともあり、横綱大の里戦で寄り切って勝ち越しを決めた。こちらも豊昇龍と同じで後半だんだん調子が上向いてきたのがよかった。大関が8勝で満足してはいけないけど、今の琴櫻の状態ならこれが精いっぱいなのではないか。相撲を取り続けながら怪我を治すのは難しいので、カド番にはなるけどいっそひと場所全休してしまって、翌場所に再起を賭けるというのはどうだろう。あと体重を落とさないと膝に負担がかかるばかりだ。今の体型では見た目もあまり美しいとは言えない。せめて2桁には乗せてほしい。
次は関脇。安青錦のことは冒頭で大々的に書いたので、西の王鵬について。前半はあまり力が発揮できていなかった。でも、後半になるにつれて左からの攻めが多くなり、押しの圧力も出てきた。持ち味は出てきたけど、なかなか勝ち星には結びつかず、負け越し。小結以上との対戦では隆の勝に勝っただけ。平幕上位でも実力者がひしめいているので星を残していくのは簡単なことではない。それでも負け越してから3連勝で7勝とした辺りは前回の関脇(6勝)よりひとつ成長したということだ。間違いなく力を付けてきている。
つづいて小結。東の隆の勝は膝の状態がよくなかったのか、初日から5連敗。以降は持ち直して5勝5敗だっただけに序盤が悔やまれる。たしかに中盤以降は右差しからの早い攻めや押しもよくなった。が、5勝ではまた出直しだ。一方、西の高安は千秋楽に勝って勝ち越し。来場所も三役を維持することになった。序盤を4勝1敗で終えたときは今場所は台風の目になるかと思ったものだが、中盤以降失速。4連敗で7敗と追い詰められたが、そこから3連勝で勝ち越した。左を差すと強いし、右の上手を引けば盤石だ。左半身になると重い腰が活きる。
もし来場所も小結なら5場所連続。これは小結の連続在位のタイ記録(4人目)。関脇では豪栄道の14場所連続など長い連続在位記録があるけど、これは大関への階段を駆け上がる前段階の地位であり、勝ち越しても平凡な地位なら据え置かれるし、負け越さない限り、その地位から落ちることはない。維持しようと思えば何場所でもその地位に留まれる。が、小結は自分の成績だけではなく、他の力士の成績も絡んでくるので、連続で長く勤めるというのは至難の業だ。今回の高安のように勝ち越し負け越しを交互に続けていけば継続するかもしれないが、8勝でも関脇になるかもしれないし、7勝でも平幕に落ちるかもしれない。だから、この記録は珍記録といえなくもない。今回はなんか記録の話が多いですね。
長くなったので、平幕力士については次回書きます。今回はこんなところで。



ディスカッション
コメント一覧
まだ、コメントがありません