令和8年大相撲初場所 まとめ

令和8年、最初の大相撲は決定戦の末、新大関・安青錦の連覇、2回目の優勝で幕を閉じた。西4枚目・熱海富士との決定戦は熱戦だった。右から必死に上体を起こそうとする熱海富士に対して、起きない安青錦の攻防は見応えがあった。熱海富士は体を起こすことに成功したものの、ここで安青錦がとっさの首投げを打つ。これには熱海富士も堪らえ切れず、その大きな体はひっくり返された。熱海富士は私の好きな力士の一人で、ずっと前頭3枚目以内を上下していたが、なかなか三役に上がれず、去年は前頭二桁まで番付を落としたりもした。それが今場所は右からの攻め、立ち合いの圧力が冴えて横綱を連破、いつもの詰めの甘さも見られず、攻め切ったことがよかった。これで覚醒してくれれば、三役はおろか大関だって見えてくる。たいへん楽しみである。

では、上から見ていこう。

横綱は東・豊昇龍が左膝、西・大の里は左肩を怪我しており、万全ではなかった。そんな中、前半はともに白星を重ねていったが、中盤から疲労が出たのか、負けが込み、そろって10勝に終わる。豊昇龍は連敗を2度、大の里はまさかの3連敗を喫する。豊昇龍はいつも通りな感じだったけど、大の里はバタバタする相撲が多かった。3日目の宇良戦などは見えない力が働いたのか、勝ったけど、あれはどう見ても負けである。私は2人とも途中休場するのではと思っていたから、皆勤して2桁勝ったのは綱の責任ということだろうか。これで豊昇龍は横綱に昇進してまる一年になるが、今場所も優勝できなかった。こんな状態があまりに続くようだと横綱審議委員会から「激励」という名のプレッシャーをかけられそう。が、これまで通りの相撲を取っていては優勝はまだ先のことになりそうだ。いずれにしても、ともに怪我をしっかり治すことを優先してください。

大関は安青錦の優勝は先にも触れたけど、記録面では新関脇で優勝、翌場所新大関でも優勝というのは双葉山以来89年ぶりのこと。その頃の双葉山はあの69連勝のさなかで充実していた時期だ。なので、ともに全勝優勝。さらに次の場所も全勝して大関を2場所で通過している。大関を2場所で通過したのは双葉山の少し後の照国、去年引退した照ノ富士の3人しかいない。安青錦にもぜひ実現してもらいたい。3場所通過は北の湖、千代の富士、朝青龍。4場所となると多くいて、古くは羽黒山、輪島、時代が下って現役の大の里など7人を数える。昭和の大横綱・大鵬は5場所、優勝45回の白鵬は7場所かかっている。

もう一人の大関・琴櫻はまたしても8勝止まり。勝ち越しを決めてから3連敗した。毎度毎度9勝目が遠い。1年前、綱取り場所で大負けしてカド番に陥って以来、負け越しはないけど、ほぼ8勝で場所を終えている。調子がよかった秋場所は9勝目を挙げた翌日から休場となり、結局去年は2桁勝つことがなかった。年間でも46勝とかろうじて勝ち越し。もたもたしているうちに安青錦にも先を越されそうだ。今のままでは大関の地位を守るのに精いっぱいだろう。以前も書いたと思うけど極端な話、8勝と全休の繰り返しでも大関は維持できる。それでよしとするのか?何なら、一度全休して悪いところを治して、万全を期してから出場したほうがいいのではないか。弱い大関の代名詞のような「クンロク」よりひどい「ハチナナ」大関など見たくない。それに甘んじるようならいっそ大関から落ちてくれたほうがいい。いいときと悪いときの差が激しすぎる。なぜ、体格を活かした圧力をかける相撲をいつも取れないのか。まわしが取れないとバタバタするのに、まわしが取れないまませめて墓穴を掘ったりするから何をしたいのかと思う。いずれにせよ、今のままでは優勝できない豊昇龍と同じ立ち位置で終わってしまいそうな気がする。

ところで、両横綱と安青錦の3人の対戦成績を見ると面白い。豊昇龍は大の里に強く、大の里は安青錦に強く、安青錦は豊昇龍に強い。まるでじゃんけん、三すくみ状態だ。安青錦が上に上がってきて、3人が顔を合わせるようになった頃から変わらない。といっても、3人が顔を合わせるようになってからまだ半年くらいしか経っていないのだが、既にその構図ができていたということになる。これがいつどう崩れるのか。でも、このほうが場所ごとに優勝力士が変わって面白くもある。

横綱大関の話が長くなった。

次、関脇です。霧島11勝、高安8勝とともに厳しい攻めで勝ち越した。前半は順調に星を伸ばし、中盤からの上位戦で豊昇龍、安青錦に勝つなど左からの攻めが厳しく、大関に上がる前の状態に近いように思う。先場所も11勝だったので、来場所の成績如何では大関復帰もあり得る。ただ、霧島の好調は長続きしない。それは安定感がないのではなく、首や足の怪我が十分に癒えていないことからきている。それが大関から落ちた原因でもある。最近はいいときと悪いときが交互に来る感じだ。だから、今回2場所続けて好成績となっているだけに来場所も維持できるかがカギとなりそうだ。一方の高安は重い腰からの低い攻めでいい相撲を取った。左四つになると安定感が増し、上手を引けば盤石。が、終盤疲れたのか1勝4敗で8勝止まり。横綱大関戦で一つも勝てなかったのは意外だった。

小結は王鵬がまさかの4勝。大関2人には勝ったものの、押しにいつもの力強さがなく、四つになっても圧力が弱かった。9日目で4勝5敗だったのに以降は6連敗してしまった。勝ち越すくらいはするだろうと思っていただけに残念だが、来場所は出直しだ。逆に若元春は序盤5連敗スタートからの勝ち越しは立派だ。攻め込まれる場面が多かった序盤に比べ、中盤以降は左のおっつけが強烈で、相手が浮くほど攻めが厳しかった。それが若元春の持ち味であり、いぶし銀、玄人受けする相撲は健在だ。

平幕上位は熱海富士は冒頭で書いた通り、来場所以降に期待。西筆頭・義ノ富士はギリギリ勝ち越しだ。これで入門以来の連続勝ち越しが継続することになる。2大関には敗れたものの、2横綱には攻めて勝った。これで殊勲賞を受賞した。彼の休まず攻める相撲は師匠の教えだろう。体格を活かした圧力をかける相撲で上位を苦しめた。8勝でも9勝でもコツコツと積み重ねて上がっていけばいい。西2枚目の若隆景は横綱大関には全敗したけど、9勝を挙げた。低い姿勢からの左おっつけで攻める相撲は兄弟似ている。今場所は鋭い立ち合いで低く攻める相撲が多かった。これぞ若隆景だ。西5枚目の美ノ海は9勝。組んでも離れても相撲が取れるのだが、左からの攻めが巧い。千秋楽の高安戦はうまく横を向かせて送り出すなど小技もあってなかなか渋い。西3枚目の伯桜鵬あらため、伯乃富士は足を傷めて途中休場して5勝8敗2休に終わった。休まず攻める相撲は迫力があるが、まだ圧力は足りないように思う。体格が小さいということもあるのかもしれない。その分、低い攻めで下から押し上げると相手が浮いてしまう。そこが魅力なので早く治して戻ってきてほしい。

中位は期待の力士が勝ち越した。東6枚目の平戸海はいつもの愚直なまでの正攻法な相撲で9勝。小さい体で攻め続ける相撲が気持ちがいい。右差し左前みつを取っての速攻は相手にとっても脅威だろう。西7枚目の藤ノ川は平戸海よりもさらに小さい体で正面から当たる相撲で10勝を挙げた。立ち合いでさっと二本入ると一気に走る。これもまた気持ちのいい相撲で、見ているほうも気持ちがいい。スタミナが心配になるほど休まず攻める。来場所は上位総当たりの地位に上がりそうなので楽しみにしている。この地位(前頭6~10枚目)では西8枚目の金峰山が4勝だった以外は負け越した力士はみんな7勝だった。勝ち越した力士も藤ノ川以外はほぼ8勝と上位と合うことがない分、実力が伯仲していたといえるだろう。西10枚目の琴勝峰が去年の名古屋で優勝して以来、4場所ぶりに勝ち越したのはよかった。持ち味の速い攻めが光った。

下位でまず残念だったのは西11枚目の錦富士だ。青森県出身の幕内力士が143年間継続して番付に載っているのだが、今場所も勝ち越しそうな勢いだっただけに怪我は痛い。この地位で6勝6敗3休なので、幕には残れそうだけど、次は絶対勝ち越さないと連続記録が途絶えてしまう。怪我を治して来場所に備えてほしい。そして早く十両の尊富士との2人体制になってほしいと願うばかりだ。その尊富士は西十両5枚目で8勝なので、来場所の返り入幕はなさそう。

ここでは西12枚目の阿炎が10勝とよかった。今場所は得意のもろ手突きがよく出ていたけど、それに加えて四つ相撲もよかった。最近の阿炎は肘の状態がよくないのか、突き押しの威力が弱かった。でも、今場所は調子のいいときの阿炎の相撲だった。四つ相撲が増えてきたのは突き押しだけに頼らず、幅を広げるためのものだろう。懐が深いから四つからの投げなんかも有効かもしれない。上背があれば、こういうこともできる。つづいて西16枚目・入幕2場所目の欧勝海も10勝を挙げた。四つでも押しでも相撲が取れるのがいい。よく前へ出るのもいい。朝乃山、御嶽海の元大関に勝ったし、13日目には小結・若元春、千秋楽では優勝争いを演じていた熱海富士との対戦に抜擢される。つまり、相撲内容が評価されているということだろう。先場所、2日目から8連敗で早々と負け越したものの、以降は6連勝で結局7勝した。そして、今場所は幕に踏み留まり、10勝と幕内の土俵に慣れたのだろう。これは将来が楽しみだ。東14枚目の獅司は9勝。前へ出る相撲で頭も低い。簡単には下がらない相撲で勝ち星を重ねてきたが、好成績だったこともあり、最後の3日は幕内上位との対戦が組まれ、そこで3連敗、2桁には届かなかった。獅司は安青錦が出てきて影が薄くなっているけど、初のウクライナ出身の幕内力士である。同郷の安青錦の存在は相当刺激になっているだろう。まだ上位には行けそうにないけど、来場所の成績如何では夏に上位に上がれるかもしれない。西15枚目の朝紅龍もまた小兵力士で9勝を挙げた。負けん気が強く、真っ向から当たる相撲は藤ノ川と似ている。最近はこういう力士が多くなって、見ていて面白い。難しいと思うけど、怪我なく長く相撲を取ってほしいと思わずにはいられない。東16枚目の朝乃山は最終盤に獅司以上の上位戦が組まれ、3連敗して9勝。千秋楽は平幕の正代であったが、元大関戦が久しぶりに見られた。いいのか悪いのか…。2桁勝つのかなと見ていたけど、一歩足りなかった。それでも、右差し左上手の「型」は今なお強く、こうなると相手は何もできない。これで大関まで上がったのだから当然だ。東西の17枚目、朝白龍と羽出山は明暗が分かれた。朝白龍は序盤よかったのに中盤に5連敗して7敗を喫してしまう。ダメかと思ったらそこから連勝して千秋楽に勝ち越し。14日目正代、千秋楽佐田の海と実力者に勝っての勝ち越しだから価値がある。対する羽出山はわずか2勝と力を発揮できずに終わった。前半は攻め込まれて土俵を割る相撲が目立った。後半はよく攻めたが、土俵際まで追い詰めるのに攻め切れず、勝ち切れなかった。それが2勝に終わった原因かもしれない。

幕内下位の論評が長くなった。

これにて論評を終わりますが、来場所はもう安青錦の綱獲りだ。気になるのは今場所の優勝が12勝だった点だ。やはり横綱を目指すとなると12勝では物足りない。13勝以上は必要だろう。今場所とのバランスを考えるともっと高次の成績が求められるかもしれない。すなわち、14勝もしくは全勝だ。そのためには大の里対策は急務だろう。似たタイプの義ノ富士には今場所は勝ったけど、先場所負けている。伯乃富士の下からの攻めも侮れないし、今場所の熱海富士との決定戦では体を起こされている。前に落ちない、体が起きない安定感はあるけど、どっしりした安心感はない。それをいかに作っていくか楽しみである。あと、他の横綱大関陣にも奮起を促したい。

長々と書きましたが、早くも来場所が楽しみだ。今回はこんなところで。