令和7年大相撲名古屋場所 まとめ
愛知県体育館からIGアリーナーに変わった最初の名古屋場所は東15枚目の琴勝峰が13勝2敗の好成績で優勝して幕を閉じた。
琴勝峰には失礼だけど、まさかである。が、今場所は前へ出る相撲がよく見られた。特に11日目の隆の勝戦などは立ち合い激しくぶつかったわけでもないのに隆の勝の当たりを受け止めると右を差してスゥ―っと前へ出たらあっけなく隆の勝が土俵を割った。琴勝峰は平然、隆の勝は苦笑いという2人の表情が対照的だったのが印象的だ。また、13日目の横綱・大の里戦は攻める横綱に下がりながらも、その勢いを利用しての下手投げで逆転勝ち。逆転といっても余裕があった。やはり、琴勝峰は平然としており、横綱は笑うしかなかった。緊張はあっただろうけど、平常心を保てていたのだろう。だから、勝てた。あと、2年前の初場所で大関・貴景勝と優勝争いをしており、そのときの経験も活きたのだろう。今場所は踏み込みがよく、攻めも厳しかった。三賞は殊勲賞と敢闘賞を受賞した。かといって、攻めてばかりでもなかった。いなしたり、はたいたりもあったが、これがはまった。体がよく動いたから優勝したのだと思う。私は琴勝峰と大関の琴櫻では琴勝峰が先に上へ行くだろうと思っていた。が、怪我がつづいて伸び悩んでいた。また、おっとりしているようにも見えるので欲もあまりないのかなと思ったものだ。だから、琴櫻に抜かれたのかなとか。今場所でいうと本人の良さはもちろん、弟の琴栄峰が新入幕を果たし、それが発奮材料になったのかもしれない。
では、上位から見ていきます。
平幕だけの優勝争いになった最大の原因は横綱と大関だ。土俵を締めるはずの横綱が金星をいくつも配給しているようでは優勝など望むべくもない。というか、豊昇龍も大の里も負けたのはすべて平幕相手であった。豊昇龍は怪我の影響、大の里は新横綱の緊張や多くの祝賀行事の出席という稽古不足といった理由はあるにせよ、この体たらくはないだろう。豊昇龍はやはり強引な取り口が怪我を増やしているような気がする。なぜ去年の九州場所のような投げに頼らない相撲が取れないのか。その横綱昇進が賛否を呼んだだけに負けると風当たりが強い。また、大の里は強いときは手が付けられないけど、ちょっと攻めづらいと思ったら引いたり、無理な攻めで墓穴を掘ったり安定感がなかった。まぁ、大の里に関しては新大関場所も9勝止まりで、地に足が着いていなかったから来場所以降は落ち着くのだろうか。琴櫻に関しては3場所連続8勝と大関にいるのが恥ずかしいような成績が続いている。こちらも優勝した去年の九州場所の相撲を早く思い出してほしい。
つづいて関脇。東の大栄翔が休場したのは残念だった。残る西・霧島は8勝、西2・若隆景は10勝だった。霧島は10日目に勝ち越してから5連敗と失速。5敗のうち、4敗は自分より上の番付、あと1つは草野だった。若隆景も序盤の3連敗が響いたて、大きく勝ち星を伸ばすことはできなかったが、大崩れはなく2桁勝った。これで夏場所の12勝に続く連続2桁勝利となり、来場所はいよいよ大関獲りとなる。3関脇ともに先場所2桁勝っていたので、今場所は大関への足掛かりとなる場所であった。全滅は免れたので来場所の楽しみができた。
小結は東・欧勝馬が3勝、西・高安が10勝と明暗が分かれた。欧勝馬は徐々に番付を上げての新小結であったが、上位陣の壁は厚かった。欧勝馬は攻めはあるけど、引きもあり、これが足を引っ張っている。もう少し前へ出る相撲を磨いたほうがいい。また出直しだ。一方の高安は番付運がよく、3点の負け越しなのに先場所に引き続き小結に据え置かれたが、今場所は11日目に勝ち越し。優勝争いからは早くに脱落したけど、残り2日を勝って2桁に乗せた。
平幕上位。ここはなんといっても東筆頭の安青錦だろう。この地位で11勝して、千秋楽まで優勝争いに残った。とにかく前傾姿勢を崩さない。それでいて、前に落ちない。千秋楽はバッタリ落ちましたが。腰も低く、頭を付ける相撲を徹底している。琴櫻に内無双、豊昇龍に渡し込みなど普段やっていないと出てこないような技を繰り出す。安定感があるから攻めは強く、守りは固い。まだ自分の型はなさそうだけど、型を持つようになると一層強くなる。これで新入幕から3場所連続で平幕で2桁勝利。これは阿武咲、大の里に続く3人目の快挙だ。3場所連続で2桁勝利を上げれば、3場所目は三役というのがほとんどだ。先場所の成績は三役になれるかどうかだったが、幸か不幸か平幕に留まったことで記録が生まれた。技能賞は当然だ。あと西4枚目の玉鷲。40歳で、この地位で11勝を挙げた。最年長2桁勝利、最年長金星、最年長三賞(殊勲賞)の上に千秋楽の勝利で通算勝ち星が大鵬の872勝に並んだ。今場所は攻め込まれても攻め返して逆転勝ちしてしまうパワーがあった。のど輪とおっつけが強烈であった。最後の2日はなんとまわしを引いての寄り切りで勝った。特に千秋楽の欧勝馬戦は粘る相手を力の限り攻め続けてついに土俵を割らせた。あと、西2枚目の阿炎が持ち味を発揮して9勝を挙げている。西筆頭・若元春6勝、東2枚目・王鵬7勝だったのは残念だ。2人ともエンジンがかかるのが遅すぎた。
この上位の成績を見ると来場所の関脇は安青錦を加えて、今場所同様3人になるのではないか。小結の空いたところに玉鷲が入りそう。で、阿炎は東筆頭あたりに置かれると思われる。小結3人はないかな。そのほうが大関が1人でもあるし、東西のバランスが取れる。
平幕中位は休場力士が多かった中で、西8枚目の一山本が9勝、東10枚目の熱海富士が11勝と終盤まで優勝争いに絡んだ。特に一山本は9勝1敗でトップを走っていたのだが、以降は上位戦が数日続いて5連敗して2桁にも届かなかった。熱海富士はここのところ下位に甘んじているが、今場所は存在感を示した。右差しからの攻めがよく、圧力も強かった。しかし、14日目に高安に敗れ、優勝争いから脱落。たいへん悔しそうだった。これからの糧にしてほしい。ともあれ、これで久しぶりに上位に戻れそうだ。熱海富士はやはり上位で取ってほしい力士の一人なので期待してしまう。西9枚目の千代翔馬は場所前の腰の手術の影響で1勝しかできなかった。これは全休した西7枚目の遠藤ともども十両へ落ちるのは避けられそうにない。あと東9枚目の宇良の状態も気になる。勝ち越してからの休場なので番付は落ちることはないけど、休場の原因が膝なので心配だ。
下位は成績優秀者がひしめいている。優勝した東15枚目の琴勝峰をはじめ、新入幕の東西の14枚目・草野と藤ノ川がともに11勝。三賞は草野が敢闘賞と技能賞、藤ノ川が敢闘賞を受賞している。草野は攻めが厳しい。腰が低く、よく前へ出る相撲が目立った。優勝すれば、十両から3連覇となるところだった。藤ノ川は小さい体で真っ向勝負というのが気持ちいい。腰が強いのか投げが強烈だ。腰に乗せて投げるので、自分より大きな相手の体が宙に浮いてしまう。もう一人の新入幕・東17枚目で琴勝峰の弟である琴栄峰は6勝と残念ながら負け越し。この地位では十両落ちは免れないが、足腰が強いので、来場所勝ち越してすぐ戻ってくるだろう。他の力士では西15枚目の御嶽海が3年ぶりの2桁10勝を挙げた。これは新大関だった2022(令和4)年の春以来のことだ。下位での成績とはいえ、嬉しいだろう。西13枚目の正代は2桁をかけた千秋楽の相撲に敗れ、9勝に留まり、元大関揃って2桁はならなかった。
平幕優勝がよく出ると言われる名古屋場所だが、今回も出てしまった。悪いことではないけど、これは上位陣がふがいないことの裏返しである。令和になってまる6年、今回の琴勝峰で9人目の平幕優勝となったわけだけど、平成の30年4か月での9人と早くも並んでしまった。昭和でみても正味62年で16人と平成と同じようなペースであり、いかに令和における大相撲界が主役不在であるかが分かる。横綱になってもまだドングリの一角を占めているようでは情けない。せっかく東西に横綱がいるのだから、両雄並び立ってほしいものである。
来場所は上位陣の奮起を促しつつ、今場所活躍した力士がまた活躍してほしいと願う。ぜひそうなってほしい。とずれば、見る方としてはたいへん楽しみである。
今回はこんなところで。




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