令和5年大相撲夏場所 総括

5月28日に千秋楽を迎えた大相撲夏場所は横綱照ノ富士の8回目の優勝と関脇霧馬山が大関をほぼ手中する形で幕を閉じた。

今場所は皆勤して10勝くらいできればと思っていたから正直驚いた。特に序盤の相撲、初日の正代戦など一気に寄られて危ないと思ったけど、これを勝つと日ごとに調子を上げて中日で勝ち越す。9日目に明生に押し出されたものの、あとは安定感ある相撲で他を寄せ付けず14勝1敗の好成績での優勝となった。千秋楽の貴景勝戦は言うに及ばず、豊昇龍には極め出し、若元春や霧馬山には粘る相手の体を起こして寄り切るなど右四つになれなくても落ち着いて取っていた。今場所は下位で大勝ちする力士が出て、上位との対戦が組まれたこともあり、照ノ富士-大栄翔戦が組まれなかったのはラッキーと言えるかもしれない。

大関貴景勝は8勝止まり。両膝を痛めた中、カド番は脱出できた。が、怪我の影響か、相撲内容はもうひとつだった。勝ち越しを決めた13日目の明生戦は立ち合いの変化だった。同じ押し相撲の明生だから圧力を嫌ったのかもしれない。前半戦はだましだましでも勝てていたけど、後半役力士との対戦が増えると簡単に勝てず、明生戦で変化をするしか勝ち越すことができないと踏んだのだろう。見ているほうは興覚めだが。

関脇陣は充実していた。先場所優勝、来場所大関が濃厚の東・霧馬山は11勝と技能賞、西・豊昇龍も11勝、東2・大栄翔は10勝、新関脇で西2・若元春も10勝プラス技能賞と4人全員2桁勝利を収めた。これは史上初とのことだ。霧馬山は序盤は消極的な相撲が目立ち、引くことが多かったものの、後半へと進むにつれていつもの前へ出て前まわしを狙う相撲に戻った。最後は連敗したけど、11勝を挙げて3場所通算34勝として大関を確実なものとした。豊昇龍は序盤から勝ったり負けたりで、終盤になって4連勝で11勝。今場所も事態を打開する投げを打って勝つ相撲が時折り見られたが、強引な投げ技は怪我の元だから控えたほうがいい。こちらも貴景勝戦が組まれなかった。大栄翔は前傾姿勢での突き押しが光った。豊昇龍、朝乃山、若元春戦などは相手にまったく相撲を取らせなかった。若元春は左四つの相撲が完成しつつあるように思えた。豊昇龍戦の切り返しはうまかったし、貴景勝戦は張り手を何発も喰らいながら落ち着いて捌いた。一番よかったのは北青鵬戦でのうっちゃりだ。自分十分になっても攻め手を欠く苦しい相撲で、北青鵬から攻められて万事休すかと思いきや、逆転のうっちゃりが飛び出した。若元春はうっちゃり腰があり、ときどき繰り出す。今回もきれいに決まった。と、それぞれが持ち味を発揮しての2桁勝利は場所を盛り上げるのには充分であった。

一方の小結勢は琴ノ若が千秋楽にかろうじて勝ち越し、若隆景は先場所の怪我が響いて全休、正代は6勝と他の役力士に比べて物足りなかった。中でも琴ノ若は攻め込まれる場面が多く、それを懐の深さでカバーして白星を拾う相撲が目立った。先場所までの積極性はあまり感じられなかった。正代は負け越しはしたものの、勝っても負けても前へ出る相撲がけっこうあった。これは先場所に続いて今場所も勝ち越すかなと思ったけど、及ばなかった。

平幕を見てみよう。

上位5枚目までで勝ち越したのは東筆頭・阿炎8勝、東3枚目・翔猿8勝、西4枚目・錦木9勝の3人だけ。役力士がこれだけ勝った中で勝ち越すのは容易なことではない。これは先場所もそうだった。この中で錦木が後半強かった。重い腰を活かした攻め、相手への圧力、三役力士かと見まがうほどだった。逆に負け越したのは7人いるわけだけど、休場が3人、東西の5枚目・金峰山4勝、錦富士3勝と振るわなかった。金峰山はまだ力不足、体を活かし切れていなかったし、錦富士はもう少し食い下がるかと思ったけど、終盤足を怪我したようで、さらに失速してしまった。それ以外の西筆頭・翠富士6勝、東4枚目・宇良7勝は健闘したといえるだろう。翠富士は初日から5連敗したが、そこからは踏ん張って6勝としたのだから勝ち越せなかったとはいえ、まずまずといったところか。宇良は13日目に7勝目を挙げたが、それから連敗して負け越し。本人もさぞ悔しかったに違いない。

中位は大勝ち、大負けが比較的少なかった。殊勲賞の東6枚目・明生は8勝1敗からまさかの6連敗となってしまった。攻め切れず、突き落としだったり、逆転だったりで勝てる相撲を落とした。西6枚目・御嶽海は9勝で久々の勝ち越し。なんと新大関場所の昨年春場所以来だという。体調がよければ、この地位でもこれくらいは勝つ地力はある。正代ともども大関には戻れなくてもこの地位を保つのはそう難しいことではない。西7枚目・玉鷲は序盤から1勝6敗とつまずき、この地位でもダメなのか?と思った。攻め込まれて、そのまま負ける相撲が多かった。しかし、後半連勝で13日目に7勝としたので、今場所は大丈夫と思ったら連敗で負け越し。宇良のようになってしまった。この連続負け越しは気になる。衰えてきているのだろうか。西9枚目・平戸海は相変わらずの正攻法で9勝。左を差しての速い攻めをさらに磨いてほしい。好成績だったため、終盤で関脇2人と対戦があったのはこれからのためによかったと思う。東西の10枚目の竜電と宝富士はともに5勝止まり。十両に落ちる星ではないけど、来場所は危うい地位になる。ともに序盤は3勝、終盤は2勝だったのに中盤に大型連敗(竜電5、宝富士6)をしたのが痛い。なかなか自分十分の相撲を取れなかったし、取らせてもらえなかった。

下位は東11枚目の北青鵬が8勝。終盤は上位と当たったりして5連敗で尻すぼみに終わったけど、長身と懐の深さを存分に活かした相撲を見せた。半身の棒立ちの一見やる気がないように見えるのに相手に相撲を取らせない、どんなに攻められてもあとちょっとのところで土俵を割らないなど異次元の相撲を見ているようだった。ただ、終盤の5連敗が示すように攻め手はあるようだ。横から攻めて残すところを切り返しとか外掛けでひっくり返すのが効果的に見えた。この辺りはさすがの霧馬山であり、豊昇龍であった。横から攻めるといえば、引退した逸ノ城がよくこれをやられていたのを思い出した。逸ノ城はついぞ克服できずに引退してしまったけど、北青鵬はいかに。また、14日目、千秋楽にあたった王鵬や輝など体格のよく似た力士との対戦では体格差は関係なくなり、経験の差がものを言ったように見えた。つまり、同程度の地位の力士でも体格さえ似ていれば、拮抗できるということだ。こうしてみると、北青鵬もまだまだ課題がありそうだ。今は素質だけで取っている感じだろうか。そして、東14枚目・朝乃山だ。2年ぶりの幕内の土俵で12勝を挙げたが、この地位で元大関ということを考えると当然であろう。三賞がもらえなかったのは元大関だからという理由らしいが、また大関へ戻ろうとしているのだから、三賞は逆に失礼かもしれない。ただ、12勝をよく見てみると、土俵際きわどい相撲が何番かあった。琴恵光戦や明生戦などは攻め急いで突き落としを喰らっていた。いずれも勝ったけど、琴恵光戦などは悪くて取り直しだろうというほど微妙な相撲であった。上半身だけで攻めるからで、足が最後までついて行っていない。それから照ノ富士、大栄翔といった役力士には勝てなかった。照ノ富士戦の小手投げも朝乃山が攻め込んだように見えるけど、余裕をもって小手投げを打たれているし、大栄翔戦にいたっては完敗である。この2年で大きく変わった上位陣の顔触れ、朝乃山は今場所のように勝てるのだろうか。この悪癖を直さなければ、勝ち越せても2桁勝つのは厳しいだろう。もう少し、慎重かつ厳しい攻めを心掛けてほしい。意外(失礼)なところでは西15枚目・剣翔が終盤まで優勝争いの一角にいた。最後の3日で若元春、豊昇龍、朝乃山とあたり、全敗して9勝止まりだったけど、本人もいきなり関脇と対戦となって驚いたことだろう。もうひとつ驚いたのは、西16枚目・王鵬が自己最多の11勝を挙げたことだ。序盤に3連敗があり、またかと思ったら5日目から10勝1敗、9日目から7連勝で場所を終えた。序盤は攻め込まれる場面が目立ったが、中盤以降は突き押しを主体とした攻めが多く見られ、組んでも離れてもいい相撲が取れていた。突きもあるのかと思ったものだ。

最後に今場所は十両もよかった。十両2場所目、デビューから3場所目の西8枚目・落合が14勝したのはすごいというほかない。東筆頭・豪ノ山も14勝で決定戦の末、豪ノ山が優勝。次点は東8枚目・熱海富士が13勝と十両でこんなハイレベルの優勝争いはなかなか見られない。来場所の新番付が早くも楽しみだ。

その新番付は新大関・霧馬山誕生で久しぶりに大関が東西に揃う。関脇は霧馬山が抜けて残った3人態勢となるだろう。小結は阿炎が上がって琴ノ若と2人か。錦木は9勝しているけど三役はないだろう。三役はこんな感じになると思う。これで横綱1、大関2、関脇3、小結2となり、来場所は西17枚目が復活しそう。これがどう効いてくるか。西13枚目・逸ノ城引退、東15枚目・一山本4勝、東16枚目・水戸龍5勝なので、3つは空く。東12枚目・碧山5勝、東17枚目・輝7勝が微妙だが、星勘定でみると東17枚目・碧山、西17枚目・輝になりそう。碧山はおそらく幕に留まるだろう。輝も周りに大負けして落ちてきそうな力士がいなさそうなので、半枚の降下で済むと思われる。

この輝の扱い、つまり降下が半枚なのか1枚なのかで、十両から幕内へ上がってくる人数が3人になるか4人になるかが変わってくる。十両の成績を見たところ、豪ノ山、西筆頭・湘南乃海11勝、東3枚目・武将山10勝の入幕は確実だろう。4人目あるならば、西4枚目・狼牙9勝、熱海富士、落合で争うことになる。星の上でいうと、狼牙は弱い。9勝なので、単純に3枚上げても筆頭止まりだ。あとの2人、東で次点の熱海富士と西で優勝同点の落合、甲乙つけがたいので、やはり入幕の枠は3人で、来場所は東西の筆頭になるかもしれない。さぁ、どうなるか?

幕内、十両ともに盛り上がった夏場所。こんな場所はなかなかお目にかかれない。こういうのが続けば、相撲人気も復活するのではないか。満身創痍の照ノ富士に多くは望めないので、早くヒーローが誕生してほしいものだけど、霧馬山の大関昇進などその胎動はある。1年後には番付も華やかになっているのではないか。来場所が早くも楽しみだ。

今回はこんなところで。