令和7年大相撲九州場所 新番付

初めての大相撲観戦は去年の九州場所だった。あれからもう1年経った。年月の経つのが本当に速い。

10月26日、九州場所の新番付が発表されたので、上から順に見ていこう。

横綱は東・大の里、西・豊昇龍となり、先場所大の里が優勝したことで東西が入れ替わった。大の里は横綱2場所目で落ち着いたのか、名古屋場所と比べて安定感が増していた。悪癖の引き技が見られず、攻めの姿勢を貫いていた。何度も書いたけど、新三役場所も新大関場所も「新」が付くとバタバタした相撲が目立つが、2場所目以降は安定した相撲を取り、優勝を重ねていった。そして、横綱でも2場所目で優勝した。相変わらずの修正能力である。一方の豊昇龍は先場所14日目の若隆景戦で見られるように品格、力強さに欠け、横綱5場所目にしてまだ自信が点いていないように見える。そして、こちらは大の里とは対照的に強引な投げ技に頼る相撲から脱却できないでいる。横綱審議委員の面々は秋場所を総括して「大豊時代の到来だ」みたいなことを宣っておられたが、それは時期尚早だ。現状ではまだそう言い切れないが、このままでは「大の里時代」にはなっても「大豊時代」は訪れないのではないかとさえ思う。

大関は一人大関3場所目の琴櫻。今場所も優勝争いには絡めなかったけど、13日目に横綱豊昇龍に完勝して9勝目を挙げて、翌日は大の里戦だったのだが、豊昇龍戦で膝を傷めため休場、不戦敗となり悔しい結果に終わった。先場所はよく攻めていたし、攻められても粘りがあり、かつての強さが戻ってきたかと思ったものだ。勝ち越しての休場だったのでカド番にはならないものの、怪我の回復状況はどうなのだろう。今回はこれまで傷めていたのとは逆の右膝だった。つまり、両膝を傷めてしまった。こうなると大関を守るのに精いっぱいになるのではないか。うまく怪我と付き合っていくしかない。

続いて関脇。東・安青錦、西・王鵬となった。安青錦は初めて、王鵬は春場所以来2場所目となる。王鵬もいいが、やはり安青錦だろう。安定感は抜群で、攻めも守りも強い。小技もある。力強くも巧くもある。新入幕から4場所連続で11勝を挙げ、先場所は新小結での成績であった。今場所はまだ三役2場所目であるが、優勝もしくは次点くらいなら大関に上げてもいいと思う。そのくらい素晴らしい。一方の王鵬も左からの攻めは強烈で厳しい。押し相撲も粘っこい。前回果たせなかった勝ち越しはおろか2桁だって狙えるだろう。

小結は東・隆の勝、西・高安の2人。隆の勝は得意の右差しや押し相撲がよく、最後まで優勝争いに絡んで12勝で敢闘賞を受賞。春場所以来の上位だが、あのときはどこか傷めていたのか振るわなかった。今場所はいかに?対する高安は本当に番付運に恵まれている。夏場所と同じく負け越したのに東から西に回っただけで小結に留まった。それもこれも平幕上位に成績優秀者がおらず、自身も負け越し一点に留めたのが大きい。小結在位3場所中2場所で負け越しているのに翌場所もその地位に居るというのは稀有のことだろう。

平幕に移ります。まず上位から。

東筆頭に伯桜鵬が上がってきた。先場所は東2枚目で8勝だったため、高安とどうなるか注目されたが、平幕に留め置かれた。しかし、大勝ちせず、8勝とか9勝でじりじりと番付を上げてきているのが末恐ろしい。同じ傾向なのは東3枚目の平戸海だ。この1~2年上位に定着しているが、だいたい6~9勝で推移している。大きく上がらない代わりに大きく落ちることもない。安定感が増している証拠だ。何より2人とも正攻法なのがいい。

西4枚目の欧勝馬は先場所、引き技より前へ出る相撲が多く見られたこともあり、9勝して2場所ぶりの上位。また、東5枚目に義ノ冨士という見たことのない四股名があると思ったら草野であった。先代、当代の四股名から「富士」をもらったようで期待の大きさが窺える。先場所の西6枚目から一枚半上がって対戦する相手も変わってくるので、どんな相撲を取るか。対する西5枚目に元大関の正代が名を連ねた。先場所は久々の10勝で気を吐いた。この相撲が取れれば上位にまだ通用する。特に今場所はご当地だけに活躍を期待したい。

あと、踏ん張ってほしいのが西筆頭・若隆景、東西の2枚目に座った霧島と若元春だ。霧島こそ大関に上がったものの、3人とも今は三役と平幕を行ったり来たり。若手の台頭で「元」大関候補になりつつある。年齢的にもかなり厳しくなってきた。

中位では東6枚目の熱海富士は先場所、4場所ぶりの上位で楽しみにしていたのだが、わずか5勝でここまで落ちてきた。右四つの相撲はいいものがあるのに攻めが甘いというか、詰めが甘いというか、力の入れどころが違うのか勝ち切れない相撲が目立つようになってきた。上位で取っていた頃もそういう相撲は見られたけど、研究されてきたということだろうか。私の中では王鵬に代わって残念な力士になりつつある。もう一人、心配なのが西7枚目の阿炎だ。先場所は西筆頭で初日からまさかの9連敗を喫し、終わってみればわずか3勝に留まる。相撲を見る限り、突き押しはいつもと変わりはなく、腕もよく伸びていたように見えたのだが勝てない。調子がよさそうに見えて実は肘を傷めていたのか?巻き返しに期待したい。

東西の9枚目は翠富士と翔猿。相撲巧者同士で盛り上げてほしい。翠富士はこのところ、この地位に甘んじているように感じるが、また上位に上がって肩透かしを見せてほしい。そういえば、相手に研究されているのか、最近翠富士の肩透かしを見ていないような気がする。翔猿は今年に入って負け越し続きで、名古屋場所では怪我で途中休場、秋場所は幕尻近くまで落ちたが、そこで今年初めての勝ち越しでようやくここまで戻ってきた。上位キラーの翔猿はこの地位で取る力士ではない。

東西の10枚目は大栄翔と琴勝峰だが、先場所はともに調子が上がらなかった。大栄翔は名古屋場所で全休して臨んだ先場所は7勝止まりだった。突き押しはいつもどおりに見えたが、休場の原因となったふくらはぎはまだ本調子ではなく、足が付いていなかった。だから、前に落ちる相撲がよく見られた。幸い、同じ地位に留まったので、この幸運を活かして勝ち越しを目指してほしい。名古屋場所優勝の琴勝峰は秋場所で東5枚目に上がったが、3勝しかできなかった。平幕優勝あるあるだけど、優勝する場所というのはえてして打つ手がすべてうまくいく。ちょっと前に平幕優勝した徳勝龍もそうだった。攻めても引いても勝てるのだ。が、翌場所は番付は上がるし、相手のマークも厳しくなるし、神がかった相撲が何場所も続くはずもなく、勝てない悪循環に陥って負け越すことがほとんどだ。「平幕優勝力士は大成しない」というジンクスは今も生きている。

下位は東16枚目に欧勝海が新入幕、東15枚目の錦富士と東17枚目の千代翔馬が再入幕となった。欧勝海は元大関琴欧洲の鳴門が育てた欧勝馬に次ぐ2人目の幕内力士だ。左四つからの寄りを得意とするらしい。すみません、幕内の相撲しか見ないので実は知らないのです。勉強します。錦富士は1883(明治16)年から続く青森県出身の幕内力士が途絶えそうになるところを阻止した。秋場所で東12枚目だった尊富士が全休、地位からして十両落ちは確実で、このままではその伝統が途絶えるところだった。それを西十両3枚目だった錦富士が11勝して幕に戻ってきた。私は小兵ながら真っ向から当たる錦富士の相撲が好きで、幕内復帰は喜ばしいことではあるけど、負け越せばすぐ十両に落ちそうな地位だけに気は抜けない。千代翔馬は久しぶりの幕内の土俵、勝ち越すことができるか?

東11枚目と自己最高位に上がってきた獅司が持ち前の粘りの相撲でさらに上位へ上がれるか。東13枚目の豪ノ山は先場所、阿炎と同じくどこも悪くなさそうなのにまったく勝てず1勝14敗に終わり、番付を10枚も落とした。負け続けても頭から当たる相撲を貫いたのはよかった。今場所は巻き返しを期待する。

西16枚目の佐田の海と東18枚目幕尻の明生は先場所負け越して、場合によれば十両落ちかと思ったらなんとか幕に残れた。今場所はともにご当地なので持ち味を発揮してまずは勝ち越しを目指してほしい。地元の声援はきっと力になるだろう。

最後に残念なお知らせ。先場所東十両12枚目で5勝10敗に終わり、幕下陥落が決定的だった元関脇の宝富士が引退した。左四つの型を持ち、上手は浅めの位置を引いての攻め、相手の上手を切る技術など相撲が巧かった。目立つ力士というわけではなかったけど、いぶし銀、玄人はだしの力士で私の好きな力士のひとりだっただけに残念だ。やっぱり伊勢ヶ濱部屋というのは去年引退した横綱照ノ富士以下、相撲が巧い力士が多い。師匠の元横綱旭富士、さらにその師匠の元大関旭国と系譜は受け継がれているんだなとあらためて思う。それから元小結の遠藤も番付発表のこの日、引退を発表した。夏場所で東11枚目で勝ち越し、場所後に両膝の手術をした。翌名古屋場所から連続全休して今場所は東幕下3枚目だったが、力尽きた。左四つの型を持ち、右の上手は絶妙な位置を引き、前さばきもよく、安定した相撲を見せていた。何より基本に忠実だった。小結在位5場所ながら関脇にはなれなかった。残念だったのは怪我が多かったことで、これが出世を阻んだ原因だろう。三役に上がれば、部屋ゆかりの清水川に改名とも言われたが、実現しなかった。それほど素質に恵まれ、将来を嘱望されていた。2人ともご苦労さんと言いたい。

なんか、ものすごく長々と書いてしまいました。分割してもいいくらい。熱戦を期待して、今回はこんなところで。