令和6年大相撲夏場所 まとめ

まずは新小結・大の里の初優勝は見事だった。千秋楽に西関脇・阿炎に勝って12勝3敗。11勝での決定戦を回避した点でも素晴らしい。本割で一発で決めたのはよかった。決定戦になっていたら果たして優勝していたかどうか。私は11勝での優勝はまったく評価していないから個人的にもよく締めてくれたと思っている。先場所初土俵から史上最速の10場所、110年ぶりの新入幕での優勝を果たした尊富士に続き、幕下付出としてはこれも最速の7場所での優勝と大器の片鱗を見せた。末恐ろしいばかりだ。

若手の台頭は喜ばしいことではある。しかし、それを簡単に許した横綱大関陣には猛省を促したい。2場所連続で若手が新記録を作るような状況を見せられているファンを何だと思っているのだろうか。かつてないほどもろい壁だ。相撲協会はもっと危機感を持ったほうがいい。強い横綱大関がいる中から若手が台頭するなら歓迎するが、これでは真の力が量りづらいし、将来大関、横綱になったとしても正統性が疑われる。

白鵬の末期から現在に至るまで長くドングリの背比べ状態が続いている。去年から今年にかけて、その中からようやく続けて大関が誕生したから、いよいよ時代が動くかと思ったら、これまで関脇までだったドングリが大関にも範囲を広げたというだけで事態は好転していなかった。群雄割拠といえばカッコいいが、それがドングリでは興ざめである。

では、気を取り直して、今場所を振り返っていこうと思う。

横綱・照ノ富士は毎度言っているけど、10回目の優勝目指していて、それをモチベーションにして稽古に励んでいるのは分かる。でも、先場所、今場所と出てくるのがやっとで、結局途中休場に追い込まれている。そろそろ進退を決める時期に来ているのではないか、と照ノ富士にはある程度寛容な私でさえもそう思う。末期の白鵬は出てくれば優勝、無理なら休場というのが続き、それすらも批判されていたけど、照ノ富士は出ても休場だから相当厳しい。横綱の責任はもう十分果たしたと思う。照ノ富士が力尽きて引退して横綱が空位になってもいいではないか。ドングリと揶揄されている中からでもいずれ横綱は現れる。そして、地位は人を作る。時間はかかるかもしれないけど、それでいいと思う。

大関も情けない。東の豊昇龍が10勝、西の琴櫻が11勝と星の上ではぎりぎり及第点だが、横綱不在の中、最上位の地位の成績としては物足りないばかりか大銀杏も結えない力士に優勝をさらわれるとは呆れるばかりである。とにかく前半の取りこぼしが多すぎる。そして、東2枚目の貴景勝は照ノ富士とともに2日目から休場で来場所はまたカド番、今場所カド番で西2枚目の霧島は7日目から休場で大関陥落。2人とも傷めているのが首なので思い切り当たれず、本来の相撲が取れないのは気の毒だけど、これでは看板が泣く。豊昇龍は豪快で見ていて面白いけど、足腰がいいので投げに頼りすぎで安定感に欠けると書いたことがある。要は相撲が雑なのだろう。琴櫻は柔らかい体で攻めも速いとは思うけど、こちらは詰めの甘さが目立つ。そのあたりを克服しないと上へ上がるのは難しい。

関脇小結は東関脇・若元春が4勝8敗3休、東小結・朝乃山が全休と半分が欠ける状態。残った西関脇・阿炎が10勝、西小結・大の里が12勝で優勝となった。小結以上の役力士9名のうち、5人が休場となったからか、皆勤した4人は全員2桁勝ち星を挙げている。阿炎はよく腕が伸びていた。こういうときの阿炎は強く、豊昇龍と琴櫻に勝っている。大の里は基本に忠実で、腰はよく割れ、攻め方を心得ている。体格もいい。遠藤のようなタイプで、それを一回り大きくしたのが大の里といった感じか。負けたのが大関の豊昇龍、元大関の高安、平幕の平戸海。

平幕はひとまとめに。

東筆頭の熱海富士は千秋楽に隆の勝に敗れて負け越して新三役を逃した。いい相撲もあるけど、まだ甘いところがある。でも、来場所も東から西へ回るか2枚目あたりだろうから三役を目指せる地位だから今度こそ勝ち越してほしい。西筆頭の大栄翔は11勝で優勝次点で来場所は三役に復帰だ。阿炎同様突き押しが冴えて2大関2関脇に勝ち、順調に星を伸ばした。東2枚目の平戸海は9勝を挙げて来場所の新三役が期待される。小さいながらも正攻法の相撲は見ていて気持ちがいい。大の里戦では下から押し上げる相撲で一気に押し出した。大の里攻略のお手本のような相撲だった。

面白かったのは東3枚目の高安で6日も休みながら7勝3敗5休と勝ち越すのかなと思うほどの強さだった。体調さえよければ高安はまだまだやれるところを見せてくれたけど、よく腰を傷める。調子がよくても今場所のようにどこか傷めて休んだり、場所に入る直前で腰を傷めて全休したりというのがあり、本当にもったいないと思う。また、西4枚目の宇良は6連勝スタートで首位に立ったにもかかわらず、8連敗して負け越し。千秋楽に勝って1点の負け越しに留めたものの、場所の後半は上位との対戦が増えたこともあり、相手によく見られていた感じだった。そういう点では東9枚目の玉鷲もよく似た場所であった。前半は攻めが弱い印象で、2勝7敗となったときはどれだけ負けるのかと思ったら、そこから力強い相撲を取り戻して5連勝。しかし、千秋楽で一山本に敗れて負け越し。先述の熱海富士も玉鷲もともに相手は同じ7勝7敗の隆の勝であり、一山本であったからどちらも負けられない取組であった。酷ではある。

東10枚目の湘南乃海は11日目が終わって9勝2敗とトップに立ったが、そこから上位との対戦が続いて2桁に乗せることができなかった。初場所で4勝しかできなかったときはどうした?と思ったものだが、春、夏と連続9勝で盛り返している。でも、上位でやるにはまだ踏み込みの鋭さなど足りない点はある。このあたりは熱海富士、今回触れていないけど、王鵬には共通している。上位の常連になるにはそこを磨く必要がある。新入幕の西14枚目・欧勝馬が10勝で敢闘賞。押しがよかった。押しもいいが、体格を活かした四つ相撲でもいいと思う。西2枚目の豪ノ山と同時に十両に昇進したものの、差が付いた。でも、コツコツと精進して5場所遅れで幕に上がってきた。来場所以降が楽しみだ。

あと、大ベテラン2人。東11枚目の佐田の海と西16枚目の宝富士がともに9勝を挙げた。2人とも千秋楽で敗れて10勝はならなかったものの、3枚ほど上がることになりそう。佐田の海はたしか6日目だったと思うが、足を怪我した。出場できるかと思ったら、皆勤してしまう。そして、むしろ怪我をしてからのほうが攻めが厳しくなったようにすら感じた。差せば速攻という持ち味が発揮された。宝富士は春場所に十両に落ち、66場所守った幕内の座を失った。でも、1場所で幕に戻ってくると初日から5連勝。10日目に勝ち越して、一時優勝争いのトップに立つ。後半疲れることの多い宝富士ではあるけど、残り5日で2勝はして10勝に到達するだろうと思っていた。でも、9勝止まり。それもまたよし。

この辺で今場所のまとめを終わります。来場所は横綱大関陣が奮起して、というのもこういう地位の人に対して使う言葉ではないけど、とにかく場所を盛り上げてほしい。そして、貫録、意地というものを見せてほしい。

今回はこんなところで。