令和4年大相撲夏場所 総括

2022年5月29日

昨日、大相撲夏場所が終わり、横綱照ノ富士が7度目の優勝で幕を閉じた。

初日の大栄翔戦で一気の電車道で敗れたときは腰も高く、攻められても棒立ちで力が入っておらず、簡単に土俵を割っていた。これを見て休場明けだし、この状態だとどこかでまた休むかなと思ったものだ。それでも中日まで取り、その時点で5勝3敗となったときでさえ、皆勤できても10勝止まりだろうという観測だった。負けた相撲はいずれも押し相撲の力士で、これまでもそれほど得意な相手ではなかった。それが9日目からの7連勝で優勝してしまった。後半戦はむしろ動きがよく、阿炎や貴景勝などの押し相撲得意の相手にも下がらなかった。あのいつもの慌てず騒がずの照ノ富士に戻っていた。最大2つ付けられていた星の差も成績上位の力士が脱落し、照ノ富士が自分の相撲を取り戻して淡々と勝っての優勝であった。これは逆転優勝といってもいいだろう。

書きたくもないけど、そういうわけにもいくまい。大関陣があまりにもふがいなかった。御嶽海、正代は負け越し、貴景勝がかろうじて千秋楽に勝ち越しを決めた。皆勤した2人がともに負け越しというのは過去にあったが、史上初の大関3人が皆勤して全員負け越しというのは回避された。

千秋楽に貴景勝が勝った相手は正代であったが、その相撲の途中、貴景勝が俵を割っていたのではないかと物言いがついた。あるいはと思ったけど、かかとが浮いていて勝ちを拾った格好だ。3大関全員負け越しなどなかなか見られないことなので、見てみたかったという邪悪な気持ちが芽生えていたが、意地、執念が勝ったか。正代も必死の相撲だったが、強烈な突き落としに屈した。正代は既に9敗していたから、9敗も10敗も同じカド番だと思ったかどうかは分からない。ただ、3人のうち、御嶽海は場所中どこかを痛めたようなので自分の相撲が取れなかったのは気の毒であった。

関脇は先場所優勝の東の若隆景が9勝、西の阿炎が7勝と振るわなかった。千秋楽に東西の関脇が相対したが、離れて取りたい阿炎と四つに組みたい若隆景の攻防が面白かった。最後は組まれて阿炎も必死の抵抗を見せたが、四つ相撲は若隆景に一日の長があった。

若隆景は前半の負けが響いて9勝に終わったが、これは大関獲りに向けてどうなのだろう。10勝なら間違いなく来場所は大関をかけることになったはずなのだが、9勝なので待ったがかかりそう。微妙である。名古屋でまた優勝でもすれば大関推挙の声が出るだろうけど、仮に12勝しても優勝できなければもうひと場所となりそう。今のところ、その点について誰からも言及がない。北の富士さんは8勝なら完全にダメだが、9勝しておけば望みをつなげるという意味のことを言っていたが、いかに?また、今の大関陣を見ていると、数字(3場所合計33勝)をクリアしたからといって簡単に上げていいのかという異論も出てきそうだ。若隆景のあの型は魅力的だが、まだ盤石ではない。その点も気がかりだ。

小結は東の豊昇龍が8勝、西の大栄翔は優勝争いに絡む11勝とともに勝ち越して場所を大いに盛り上げた。

豊昇龍は少し体が大きくなったような気がする。たくさん食べているのだろうか。これまでのほっそりした体型ではなくなっている。これは相手に圧力を与える上で有利だ。でも、あまり体重を増やしすぎると動きが悪くなるので、今くらいでちょうどいいかもしれない。あの足腰があれば、それほど体重を増やさなくてもいいように思う。

大栄翔はよかった。初日に照ノ富士に圧勝して波に乗ったようだ。小結は初日から横綱大関と対戦する地位だから好成績を残すのが難しい。でも、三役以上との対戦で5勝した。そして、10日目から6連勝で殊勲賞を獲得した。優勝した照ノ富士に勝っているのだから当然の受賞だ。

平幕上位は東2枚目の霧馬山が10勝、西2枚目の琴ノ若が9勝、西3枚目の玉鷲が9勝、西4枚目の隆の勝が11勝と充実した土俵であった。

霧馬山は豊昇龍と同じく足腰がいい。押しや寄りといった正攻法の攻めをみせたり、出し投げやひねりを繰り出したりと業師の面もある。それほど体格が大きいわけでもなく、ちょうどいい体型だ。

琴ノ若は初日から3大関を連破したときは今場所も大勝ちするのかと思ったけど、4日目からの4連敗が響いて2桁には乗らなかった。9勝のうち5勝が突き落としと攻め込まれて勝ちを拾った相撲が多く、今場所はパッとしない印象が強かった。先場所と比べて攻めが遅く、守りに回ったためだろう。

玉鷲は37歳にしてあの相撲内容、気迫は大関陣にも見習ってほしい。とにかく突っ張りの威力がすごい。小手投げも強烈で、突き落としもある。それはおっつけが強いからこそである。

隆の勝は先場所の不調が嘘のように勝った。同部屋の貴景勝との対戦はなかったが、その他の横綱大関を総なめにしたこともあり、殊勲賞に輝いた。押しもいいし、右がのぞいたときの体を密着させての速攻も見るべきものがある。腰を落として攻めるので簡単に前に落ちないのもいい。終盤は優勝を意識したのか動きに精彩を欠いてしまったが、これを糧として来場所以降も活躍してもらいたい。

その一方で、東筆頭の高安、東3枚目の北勝富士はいいところがなかった。高安は序盤、中盤と負けが込んで負け越したものの、終盤は自分の相撲を思い出したのか4勝1敗で6勝に留める。北勝富士はさらに悪く5勝しかできなかった。正代、貴景勝に勝つ相撲があるのにあとはさっぱりだった。押し相撲の北勝富士だが、最近四つで取ることが増えてきた。迷いがあるのではないか。

さて、ここまで見てきて、三役は3人が勝ち越し、阿炎は西関脇で7勝。それに対して平幕上位の今挙げた4人がどうなるのか。通常なら阿炎は小結に落ちる程度で済む成績だ。ちょうど小結で大勝ちした大栄翔がいるので2人を入れ替えるということになるだろう。多分、そうなると思うのだが、まさかの平幕転落の可能性はないのだろうか?霧馬山の10勝というのが不気味だ。ここ数場所、三役のレベルが高いのか、簡単に負け越さないので三役になれない力士が増えている。次の場所も同じくらい勝てれば昇進できるかもしれないけど、なかなか難しい。上が閊えていてどん詰まり、フン詰まり状態になっている。かわいそうだけど、近頃は関脇小結は東西に1人ずつしか置かなくなっているので仕方がない。

他の力士を見ていこう。東6枚目の宇良は4敗で追走していただけに残念だった。膝の痛みは如何ともしがたい。でも、怪我をする前の半端相撲ではなく、今は正面から当たっての押し相撲に変わっている。西6枚目の若元春は弟若隆景よりも相撲内容がよかった。正攻法だし、両前まわしを取ったり、おっつける相撲は基本に忠実だ。この辺の取り口は若隆景と似ている。14日目のうっちゃりは見事であった。

下位ということもあるけど、敢闘賞を取った西12枚目の佐田の海をはじめとしたベテラン勢がよく頑張った。佐田の海は前さばきのよさ、差し身のよさからの速攻という持ち前の相撲が存分に発揮されて、優勝争いに最後まで絡んだ。東10枚目の隠岐の海が前半の不調を終盤盛り返して9勝、東11枚目の碧山が序盤5連勝と幸先よく、そのまま2桁10勝と存在感を示した。

でも、同じベテランでも気になったのが宝富士だ。初日から8連敗で早々に負け越してしまった。とにかく粘りがなかった。左も差し勝てなかったり、右で上手を引いても負けてしまったりと散々だった。それでも後半は4勝3敗と盛り返して何とか4勝11敗としたが、どこか悪かったのだろうか。

若手では西15枚目の一山本が初日から5連勝というスタートをみせたが、終わってみれば8勝止まり。好成績ということもあり、終盤は上位と組まされ失速した。あの突き押し相撲は見ていて気持ちがいい。でも、まだ上位には通用しない。西16枚目の翠富士は1年ぶりの幕内復帰だったが、9勝を挙げた。得意の肩透かしで4番勝つなどうまさは健在であった。

同じ若手だが、東14枚目の王鵬は今一つピリッとしない。2場所ぶりの幕内だったが、祖父の大鵬と似て、大きくて柔らかそうなのにそれが活かし切れていない。攻めも遅く、押しなのか、四つなのかもはっきりしない。おっとりしているように見えるからなのだろうか?何だかもどかしい。もっと攻めを厳しくしないと上位は望めないし、ややもすれば、今の地位すらも危うくなる。この地位で6勝だったから十両に落ちるか幕に残るか微妙な成績である。今場所のような相撲を取るくらいなら十両で出直したほうがいい。

あと、西14枚目の豊山も伸び悩んでいる。王鵬と同じように申し分ない体格を持っていながら勝てない。豊山もまた6勝しかできていない。これは今場所に限ったことではないのだが、押し相撲が得意なのに、その威力、圧力が相手に伝わっていないように見える。これでは上に上がるのは難しい。

何だか苦言のほうが多くなった総括でしたが、これも来場所頑張ってほしいから。特に大関陣には奮起を促したい。

今回はこんなところで。