令和4年大相撲名古屋場所 総括
昨日、大相撲名古屋場所が終わった。戦前には予想だにしなかった西前頭2枚目の逸ノ城が12勝3敗で初優勝を飾った。
今場所の逸ノ城は左の上手を取るのが早かった。照ノ富士戦など正にそうであった。立ち合いサッと左上手を取る。横綱が肘を極めようとするが、上背がよく似ているので十分に極め切れない。最後は力で寄り切った。今、四つになって力勝負で照ノ富士に勝てるのは逸ノ城くらいのものだろう。これまではそうさせずにうまく攻めたから横綱が勝ってきた。あと、よかったのは横から攻められるという相撲がほとんどなかったことだ。これが逸ノ城の弱点だったが、今場所は常に相手を正面に置いていた。これが来場所以降も続けられるのなら大関くらいはなれるのではないか。ただ、好成績を連続して収めたのを見たことがないからどうなることやら。優勝したんだから素直に祝福しろよと言われそうだけど、「あのときはよかった」ではもったいない。29歳、まだ間に合う。
さて、番付順にみていこう。照ノ富士は最終盤に大関2人に負けるというまさかの展開になって次点に終わってしまった。先場所のように前半の取りこぼしを後半の連勝で盛り返して最終的に首位に躍り出るパターンになったものの、完全に再現するには至らなかった。やはり、膝に疲れがたまっていたのだろう。以前のような無類の強さはなくなってきた。あと最低1年くらい取ってほしいと思うが、どうなるのだろう。
次は大関。途中休場の西・御嶽海は気の毒だったが、東・貴景勝11勝、東2・正代10勝と大関として最低限の成績を残せたのはよかった。貴景勝はまだ首に不安があるような相撲だったが、それでも体で何度も当たって押していた。当たりが強いからいなしや突き落としが効いていた。正代は序盤戦1勝4敗と絶望的な成績から7連勝して勝ち越すと照ノ富士にも勝つなど久々の2桁勝利をあげる。勝ち出すといつもの圧力のある攻めが復活していた。前に攻め続けたのもよかった。2人ともこれが初日からできていたらもっと優勝争いに絡めていたのにと思うと残念だ。
関脇は東・若隆景8勝、西・大栄翔途中休場と物足りない成績に終わった。若隆景は前半に星を落とすことが多く、勝ったり負けたりで、なかなか2桁勝てない。先場所今場所とつんのめって前に落ちる相撲が目立つ。前傾姿勢で攻めるのは体を起こされないために有効な体勢ではあるが、起こされまいとの意識が強すぎるのではないか。大栄翔は皆勤できていたら勝ち越せていたと思う。強烈な押しは威力抜群だったし、下から突き起こす相撲は相手の体を浮きあがらせていただけに悔しかったことだろう。
小結は東・豊昇龍9勝、西・阿炎8勝とともに勝ち越した。ともに持ち味を出した。豊昇龍は敗れたものの、照ノ富士戦は善戦した。横に付いて出し投げを連発して横綱を休ませなかった。序盤に喫した4連敗はいただけないが、そこから9勝までもっていったのは見事だ。阿炎は今場所、突き切って勝つ相撲が少なかったように思う。いなしやはたきがときどき見られた。両腕を目いっぱい伸ばした突きは阿炎の魅力だけに、引き技に頼る相撲は見たくない。
平幕上位で目に付いたのは東筆頭の霧馬山だ。14日目の若元春戦は差し手争い、投げの打ち合い、と見ていてこんなに面白い相撲は久しぶりに見た。取り直しとなったが、その相撲も微妙な一番で、さらに取り直しでもよかったと思うくらいだ。とにかく足腰がよく、投げが強い。豊昇龍のような派手さはないけど、末恐ろしい力士である。あと、コロナ休場の東2枚目・琴ノ若、負け越しはしたけど東4枚目・若元春は自己最高位でよく健闘した。今場所の琴ノ若は特に攻めが厳しかった。ここ数場所そういう傾向になっていたが、それが続いていたから期待していた。しかも、懐が深く、柔らかい。長身で腰が高いはずなのに、それを意識してか腰を低くするから攻めが効果的だ。それにしても、7勝3敗での休場だったから無念だっただろう。若元春といえば、中日の照ノ富士戦だろう。左前みつで下からの攻めで横綱に何もさせなかった。あのうまさは弟の若隆景と共通する。あの相撲は伊之助が悪い。あまりにも間が悪すぎる。まわし待ったができる場面はそれまでにもあったはずだ。判断が遅かったと言わざるを得ない。来場所は勝ち越してまた上位に戻ってきてほしい。
若隆景と若元春は足腰が強いことに加えて、前さばきがいい。まわしを取る位置も非常にいいので相手は攻めづらい。一方、豊昇龍と霧馬山は足腰に関しては一緒だが、投げが強い点で双方は対照的だ。だから、彼らの取組は楽しみだ。突き押しといなし、はたきが主流の今の相撲よりずっと面白い。
コロナ休場は他に西6枚目・翔猿、西8枚目・錦木、東13枚目・一山本の3人が優勝争いに絡んでいた。もし、皆勤していたらと思うと本人はもちろん、ファンも協会も痛かっただろう。逸ノ城の優勝に落ち着いていたかどうか。でも、彼らが皆勤できていたら、先場所同様に星のつぶし合いで照ノ富士が優勝していたのかもしれない。
平幕下位になるけど、西11枚目・翠富士、東15枚目・阿武咲、新入幕の東17枚目・錦富士が10勝した。翠富士、錦富士はともに伊勢ケ浜部屋の技巧派。前さばきがよく、低い姿勢で攻める。錦富士は敢闘賞を受賞した。阿武咲は久しぶりにらしい相撲が見られた。気持ちのいい突き押し、はず押しで攻める相撲が光った。阿武咲はこんな地位で取る力士ではない。
ちょっと気になるのが錦富士で10勝のうち、3つがコロナによる不戦勝であったことだ。これで敢闘賞というのは相応しいのか?水を差しているわけではなくて、もし対戦があって3人に勝っていたかどうかというと、こればかりは何とも言えない。自身も含めて一山本も翔猿も成績がよかったし、北勝富士は三役経験者だ。下手をすれば、7勝止まりだった可能性もあるわけで、どういう選考基準だったのか。今場所の緊急事態を考えると、新入幕力士に三賞を授与して場所を盛り上げた功績を称えたかったのかもしれない。
若手の残念な力士として挙げた西15枚目・王鵬と東16枚目・豊山はともに8勝7敗で勝ち越した。勝ち越したからいい相撲もある。王鵬は10日目の琴勝峰戦で、常に前に出る相撲で押し出した。ただ、何人かの解説者が話していたことだが、左のおっつけはいいが、右の攻めが弱いという指摘だ。だから、攻めに厳しさがなく簡単に逆襲されるとのことだ。そういわれて見てみると、たしかに右がおろそかになっていることが多い。あと、豊山も中盤に4連敗するなど危なっかしい。12日目の輝戦ではうまく攻めて、最後は差し手を返して寄り切り、体をお活かした相撲を取っていた。このようにいい面はあるのに勝てる相撲で勝ち切れないなどモヤモヤするのだ。どこかで吹っ切れれば活路が見出せそうだ。王鵬は大鵬の孫ということで見えないプレッシャーがあるのではないか。豊山も部屋の由緒あるしこ名をもらってかえって相撲が小さくなってはいないか。2人とも恵まれた体格を持て余しているように見える。
これは残念ではないけど、志摩の海が絶不調で1勝14敗に終わった。場所後に結婚をして、そのあいさつ回りで忙しく稽古不足だったのだろう。にしても、あまりにもお粗末な成績であった。見たところ、どこか悪いということはなさそうである。単なる疲れの蓄積であればいいが、内臓を悪くしたとかなら長引くことを覚悟しなければならない。あの両前みつを引いて拝みながら前へ出る彼の相撲が好きで、宝富士と並んでいぶし銀な感じがいい。それだけに今場所の体たらく(といっていいだろう)は見ていて情けなかった。来場所は十両での土俵は避けられないが、体調さえよければすぐ戻ってくるだろう。
頑張ったベテランにも目を向けよう。西5枚目・佐田の海は先場所最後まで優勝争いを演じており、今場所は久しぶりに上位に顔を出した。だから、2桁は無理でも勝ち越しくらいはと期待していた。それが10日目に早々と負け越してしまった。しかし、このままズルズルいかず、終わってみれば7勝8敗であった。10日目、2勝7敗でに照ノ富士と顔が合ったときは他に成績優秀者がいるだろうと思ったものだが、終盤を5連勝で締めたのは立派である。よく「負け越してからが大事」と言われるが、それを体現した場所となった。もう一人。西12枚目の・宝富士だ。前半戦はあっさり土俵を割ったり、得意の左を差しても勝てないなど精彩を欠いていた。しかし、後半は本来の相撲を取り戻して7勝1敗とし、最終的に9勝をあげた。特に14日目の英乃海戦は左をのぞかせるとすっと寄って完勝。相手にまったく相撲を取らせなかった。まだまだ元気だ。
これで総括を終わりますが、これから大変なのが水曜日の番付編成会議だ。全体の3割ほどにのぼったコロナ休場力士の扱いをどうするか。これまでは場所前の感染者はその番付で据え置いてきたが、今場所は場所前だけではなく、場所中にも感染者が出て大量の休場者を出した。全員一律に据え置くのか、既に勝ち越していた力士…翔猿と錦木は番付を上げて、負け越した力士…遠藤は落とすのか。不戦敗で負け越したのが玉鷲と剣翔だが、自身がコロナに罹ったわけではないので、これで負け越しと言われても困るだろう。さらに不戦敗でも負け越していなかった力士はどうするのか。御嶽海の関脇陥落問題もある。不戦前の成績で考えるのか非常に難しい問題だ。
優勝も三賞も決まってよかったと思う反面、コロナに翻弄された今場所。やはり、スッキリしない。今度の番付けばかりはいつも以上に気になる。その新番付は8月29日発表だ。今回はこんなところで。
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