令和4年大相撲秋場所新番付

9月11日から大相撲秋場所が始まる。それに先立って新番付が発表された。

まず、驚いたのが関脇と小結が3人ずつ置かれたことだ。これまでかたくなに東西各1人しか置いてこなかったのに今回は柔軟に対応したものだと感心する。その代わり、平幕が16枚までとなっており、定員は変えていない。あと、コロナで大量に休場者を出した次の場所なので、番付編成は苦労したものと思われる。コロナで休場する前日までの時点で勝ち越し、負け越しの力士は番付が上下しており、どちらとも決まっていない力士は据え置きという処置が取られている。それが妥当だろう。

まず、横綱・照ノ富士。先場所は最終盤に大関2人に敗れて優勝を逃してしまった。これは悔しかっただろう。私はてっきり夏場所同様、終盤になって優勝争いに浮上して、最後は逃げ切るのかなと思っていただけに意外であった。後半、長い相撲もあり、膝が持たなかったのかもしれない。どれだけ休めているのだろう。場所が終わると、3年ぶりに巡業があったからあまり休めていないかもしれない。ちょっと心配だ。

大関陣は貴景勝、正代、御嶽海となった。御嶽海は横綱が1人である関係上、西2枚目となっている。皆勤した貴景勝と正代は久しぶりに大関の仕事をしたのではないか。やはり2桁は勝ってもらわないと土俵が締まらない。ともに後半にエンジンがかかって11勝、10勝としたことはよかった。前半戦からこの調子だったら、優勝争いに加わることができたかもしれない。御嶽海は怪我の治り具合による。先場所は夏場所同様、まるで力が入っていなかったので心配だ。先場所の休場は怪我ではなく、コロナだったので陥落は免れ、カド番が仕切り直しになったから気を引き締めてやってほしい。

関脇は若隆景、豊昇龍、大栄翔の順。若隆景は先場所8勝に終わった。大関獲りは完全に振り出しだ。でも、これでいいと思う。あれよあれよのうちに大関になって、もし成績を残せなかったら、そちらのほうが辛い。だから、大関に相応しい成績を残せるようになってからでもいいだろう。豊昇龍はついに念願の関脇になることができた。3場所連続で小結の地位で勝ち越しての関脇だから本人も嬉しいだろう。かねがね気の毒と思っていたのだが、逸ノ城の優勝でところてん式に関脇へ押し出されたとは考えたくない。

小結は阿炎、逸ノ城、霧馬山。霧馬山は御嶽海と同じ理由で西2枚目。これで東西の役力士は5人ずつとなり、バランスが保てた。阿炎はここ数場所8勝や7勝が続く。中盤に連敗しており、これがなければ楽に勝ち越せるのではないかと思う。このところ、気風のいい突っ張りがあまり見られなくなっているのが気になる。腕にサポーターを巻いているので、腕が十分に伸ばせないのかもしれない。また関脇に戻ってほしいと思う。逸ノ城は先場所の相撲がずっと取れれば、大関はおろか横綱だって望める。というか、とっくにその地位にいてもおかしくないのだが、横の攻めにはやっぱり弱い。これが克服できていないからこの地位なので、今場所は勝ち越せれば御の字だろう。霧馬山はここ数場所幕内上位に据え置かれて悔しい思いをした一人。先場所は東筆頭で4勝7敗からの勝ち越しで小結をつかんだ。豊昇龍と並んで強靭な足腰で場所を盛り上げてほしい。あと、若隆景もそうだけど、こういう細身の筋肉質の力士の相撲は見ていて面白い。

幕内上位で驚いたのは先場所西11枚目だった翠富士が西筆頭まで大躍進したことだ。通常なら5枚目がいいところの勝ち星(10勝)だが、コロナで番付を据え置かれた力士が多くいたのが原因の一つだろう。いきなりの上位戦で得意の肩透かしが通用するかどうか。翠富士ほどではないが、東筆頭の翔猿は勝ち越してからコロナにかかったこともあり、8勝5敗2休で西8枚目から上がっている。また、西10枚目で9勝だった明生も西2枚目に番付を戻した。東2枚目琴ノ若、東3枚目玉鷲、西4枚目高安はコロナで据え置き、西3枚目宇良と西5枚目佐田の海はいずれも先場所7勝ながら据え置きと最近では珍しいことになっている。これもコロナの影響か、恩恵か分からないけど、本人にとってはラッキーなことだろう。個人的にホッとしたのは東5枚目の宝富士だ。先場所は7日目で2勝5敗。得意の左四つになってもあっさり土俵を割ったり、攻めも力強さに欠け、急激に衰えたと思ったら後半戦を7勝1敗と本来の攻めと粘りの相撲を見せて、9勝を挙げた。まだまだ頑張ってもらいたい。

幕内中位は渋い力士が名を連ねる。6枚目に若元春、遠藤、7枚目に碧山、阿武咲、8枚目に栃ノ心、北勝富士、9枚目に妙義龍、琴恵光、10枚目に錦富士、隆の勝という顔ぶれだ。みんな自分の「型」を持っている力士ばかりでその型にはまれば強い。若元春は先場所初めての上位戦で壁に跳ね返されたが、今場所はまた勝ち越して上位を目指したい。阿武咲は復調しつつあるので、さらに上に上がってほしい。北勝富士や隆の勝はこんな地位で相撲を取る力士ではない。すぐ戻って暴れてほしい。錦富士はあの左四つはなかなかいい。特に上手を引く位置がいい。この巧さは伊勢ケ浜部屋の伝統だ。それから、栃ノ心も7勝ながら据え置きです。

最後に幕内下位。新入幕は東西の16枚目の水戸龍と平戸海だ。水戸龍は十両でよく聞くと思ったら在位が5年近くにもなる。巨体なのはテレビで観て知っているけど、得意は右四つらしい。もう一人の平戸海は東十両8枚目で10勝を挙げての昇進となった。これは幕内の翠富士などの例と似ている。こちらは押し相撲得意で均整の取れた体格で将来が楽しみだ。西12枚目に竜電が戻ってきた。出場停止3場所を経て幕下からの再スタートで、幕内は8場所ぶりとなる。ここには書かないが、竜電については阿炎の場合と違って複雑な気持ちになる。他の力士は東11枚目琴勝峰、東13枚目の一山本は先場所活躍していただけに今場所に期待がかかる。琴勝峰は攻めの速さ、一山本は気持ちのいい突き押しが出るか楽しみである。失礼ながら気になる残念な二人、西13枚目の王鵬と西14枚目の豊山は先場所ともに8勝した。王鵬は幕内初の勝ち越しでさらなる飛躍を期待したい。ただ、2人とも体が大きい割に相撲が小さく、厳しさがない。いいものを持っているのに、絶対の「型」がない。殻を破ってほしい。

と、新番付を見てきたが、優勝争いは照ノ富士中心に回ると思うが、照ノ富士もここ数場所の状態を見ていると絶対ではなく、大関陣も前半戦に早々に崩れるから当てにならない。となると、誰にでも優勝のチャンスがあるわけで、これからしばらくはそういう場所が続きそうな気がする。どんぐりの背比べになるのか、誰か抜きんでてくるのか楽しみである。とにかく先場所のようにコロナで休場という事態はないようにしてほしいと思う。というわけで、今回はこんなところで。