令和7年大相撲夏場所 まとめ

25日、大相撲夏場所が終わり、大関大の里が14勝1敗で2場所連続4度目の優勝を飾った。これで場所後の横綱昇進も決まりそうだ。

幕下付け出しからとはいえ入門から13場所での横綱昇進というのは過去最速だ。それまでの最速が同じ幕下付け出しの輪島の21場所というのをみてもいかに速いかが分かる。序ノ口からだと更新は不可能な記録になってしまった。序ノ口から各段を全勝しても入幕まで1年以上はかかりそうだ。それ以降もずっと全勝を続けて、もう1年といったところだろうか。今まで「化け物」とか「怪童」とか言われた力士は何人も出てきたけど、スケールが違う。毎場所書いていることだけど、体が大きく、右四つの相撲は安定感があり、前へ出る圧力が強い。あの体格なので腰も重い。腰高になりがちなのに、それを意識してか、腰は落としている。常に相手を正面に置いているし、簡単に前に落ちない。しかも、前の場所で敗れた相手には次は勝つなど修正能力が高い。

が、反省点もある。千秋楽の横綱豊昇龍戦では右差し、左おっつけで前へ攻めたものの、おっつけが甘く、豊昇龍の右を十分に殺せず、最期は回り込まれてすくい投げと思いきや、左の上手ひねりで敗れた。おっつけではなく、左で上手を取っていれば、豊昇龍の動きが封じられて勝てたかもしれない。大の里が土俵際まで攻め込むも豊昇龍がその勢いを利用しての投げで逆転というのが2人のお決まりのパターンだ。あと、右が差せないとバタバタするのは師匠譲り?だ。稀勢の里は左四つだったけど、左が差せないと落ち着きがなくなり、よく星を落としていた。他に所作の面では優勝を決めた際に多いのだけど、今風に言えば「ドヤ顔」をする点だ。これは師匠は無論、その師匠の隆の里だってそんなことはしなかった。昭和の横綱は勝っても負けても淡々、涼しげな顔をしていたものだ。ハワイ勢の横綱もそうだった。モンゴル横綱の一部くらいだろう、品格や所作が云々されるのは。嘆かわしいことだけど、大の里には他山の石としてほしい。

では、その他の力士を上から見ていこう。

横綱豊昇龍は最後は上の通り、綱の意地を見せた。が、12勝3敗に終わる。3日目王鵬、4日目阿炎と連敗したときは、また休むのかと思ったが、そこから7連勝して大の里に追いすがる。しかし、序盤の連敗が響いて13日目に優勝を許すというふがいなさ。負けた相撲は攻め込まれる場面が多かったし、特に霧島戦は軽いように見えた。今のままでは大の里のほうが優勝を重ねていきそうなので、先輩横綱としてともに切磋琢磨してほしい。が、おじさん(朝青龍)のようにはならないでほしい。

もう一人の大関琴櫻は今場所もパッとせず、8勝止まり。12日目に勝ち越したものの、最後は安心したのか3連敗で終了。立ち合いの踏み込みが足りず、圧力が相手に伝わっていないのではないかと思う。迫力不足もあり、簡単に相手に攻め込まれる。そして、土俵際では粘りがなく、簡単に土俵を割る。で、負けるとシュンとなって土俵から下りる。14日目は大の里に立ち合いこそ勝っていたが、以降は大の里に攻められてあっさり敗れ、千秋楽も大栄翔の突きに簡単に後退して押し出される。まぁ、一番の課題は精神面だろう。最後の塩に分かれ、塩を取ったときに見せる表情、ネット上では「大魔神」などと言われている顔の変化も現状では見掛け倒しにしか見えない。その怖い形相も相手ではなく、観客に対して見せているので、残念ながら相手に怖さは伝わらない。

関脇小結は東小結の高安以外の3人が勝ち越した。

東関脇・大栄翔は初日から5連勝スタート、得意の突き押しがよく、足もよくついて行った。終盤に豊昇龍、大の里と連敗して2桁は危うかったが、千秋楽に大関琴櫻の攻めをしのいで最後は押し出して10勝に乗せた。これは大きい。西関脇・霧島は前半戦は勝ったり負けたりだったけど、後半戦6連勝で11勝をあげた。こちらもやはり前へ出る相撲が多く、豊昇龍、琴櫻を破っている。ただ、大の里戦の割は崩され、実現しなかった。これは下位力士の活躍で上位と当たったことによる。霧島は調子がよかったのだから上位戦は全部やってほしかった。あと、西小結・若隆景は初日に豊昇龍に敗れたが、2日目から7連勝、最後も4連勝で12勝とした。やはり、左差し右おっつけがよく、寄り切りや押し出しが多い中、肩透かしで2つ勝ったりもしていい面を存分に発揮した。肩透かしが決まるのも前への圧力があるからだ。霧島とともに技能賞受賞も納得だ。

ところで、来場所の三役だが、今場所は平幕上位筆頭から5枚目までで勝ち越した力士がいない。東2枚目の阿炎が千秋楽に負け越し、その相手だった東6枚目・欧勝馬勝って10勝としている。で、まさかとは思うが、若隆景は小結のまま西から東へ回されるだけにならないかというのを心配している。そして、空いた西小結に欧勝馬でシャンシャンというのだけはやめてほしいと思う。来場所の関脇は3人だろう。東8枚目・阿武克10勝、西8枚目・金峰山10勝、東9枚目・安青錦11勝と続くのだから、この辺から飛び級で新小結を誕生させればいい。単純計算ではそれぞれ5枚ないし7枚しか上がれないが、来場所は考慮してもいいと思う。でも、最近の番付は関脇小結は2名ずつというのでほぼ固定されているので、関脇3人はないかもしれない。去年、平戸海が新小結の場所で10勝したのに関脇2人が勝ち越したので小結に据え置かれたケースがあり、今度もそうなりかねない。

その平幕上位。東西の筆頭の若元春、王鵬はともに7勝。若元春は初日から4連敗と苦しいスタートで、立て直せないまま終わった印象。王鵬は初日から琴櫻、霧島、豊昇龍と連破、若元春とは対照的に幸先のいいスタートを切ったのに4日目から7連敗。終盤は4勝1敗としたが、この連敗が響いて負け越し。が、ともに苦しみながらも1点の負け越しに留めたのはよかった。東3枚目の40歳、玉鷲が久々の上位総当たりの地位で6勝、東4枚目の尊富士も初の上位総当たりの地位で同じく6勝に終わる。それなりによくやったと思う。2人ともこの成績なら総当たりではなくとも何人かとは当たる地位には残りそうなので、来場所も楽しみだ。ちなみに尊富士は皆勤した場所では初の負け越しとなった。

平幕中位は2桁以上勝ったのは先に紹介した通り。3人とも前へ出る相撲で星を重ねた。阿武克は寄りが鋭く、徐々に力を付けているのが分かる。金峰山は初場所の優勝決定戦出場がフロックではないことを示している。安青錦も新入幕だった先場所がけっして勢いだけだったわけではないことを証明した。中でも安青錦が多彩な技を繰り出して、というかそのときの状況に応じて勝っている点が素晴らしいと思った。4日目に明生に上手出し投げ、5日目には翠富士に内無双とうまさもある。前傾姿勢で前に落ちないのもいい。中盤に好成績で上位との対戦が続き、それには勝てなかったけど、自分の地位に戻るとそれには全部勝って11勝で敢闘賞受賞。また、末恐ろしい力士が出てきたと期待している。東7枚目・伯桜鵬は序盤から中盤にかけて本来の馬力、攻めが出て8勝1敗として優勝争いに加わるかと見ていたら10日目から上位戦が続いて失速、6連敗で場所を終える。西9枚目・翠富士は9連敗のあと6連勝で場所を終える。負け越しはしたが、最後を6連勝で締めたのは来場所に繋がる。またあの切れ味鋭い肩透かしを見たい。

平幕下位では東11枚目の遠藤が9勝というのがよかった。遠藤の相撲を見ていると勝っても負けても取組が終わるとしばらくその場から動けず、歩きにくそうにしていて心配だった。それでも持ち前の前さばきのよさで攻めて白星を重ねた。膝かどこか悪いようなので、場所後は治療に専念してほしい。東11枚目・熱海富士は連続負け越しで長く勤めた平幕上位からここまで落ちてきた。そういう実績を持つにも関わらず、ここで8勝とはどうしたことか。どこか傷めているわけでもなさそうだし、熱海富士がもたつくような地位でもないだろうに。詰めの甘さが見受けられたので、来場所はもう少し締まっていってほしい。西13枚目・佐田の海は久しぶりの2桁10勝で敢闘賞受賞。得意のもろ差し狙いの速攻が冴えた。それに動きが軽やかだった。だから、攻め込まれても体を入れ替えての逆襲もあった。38歳ちょうどの受賞は歴代4位の高齢受賞だそうだ。父・佐田の海の最高位小結にまだ並んでいないので、ぜひそこを目指してほしい。玉鷲を見ていると、2歳若い佐田の海ならできそうな気がする。西17枚目・朝紅龍は初めて幕内で勝ち越し、それも10勝、しかも敢闘賞まで取った。小さいながら正攻法の相撲で、寄りや押しの相撲を取る。平戸海とタイプが似ていて、見ていて好感が持てる。新入幕だった東16枚目・嘉陽と東18枚目・栃大海はともに負け越し。嘉陽は千秋楽で敗れて7勝だけど、初日から4連敗スタートだった。そこから持ち直して7勝7敗の五分までもっていった。が、彼の相撲は土俵を丸く使った回り込む相撲であまり感心しない。あれではこの辺の地位では通用しても上位では歯が立たないだろう。でも、あれで勝つからつい多用してしまうのだと思う。解説の琴風さんはああいう相撲を「毒まんじゅう」と呼んでいる。引いたり、いなしたり安易な方法で勝つという意味だ。楽に勝つとその味を覚えて、攻めの姿勢に徹しなくなる。それを危惧している。栃大海は4勝、途中10連敗があり、壁に跳ね返された感がある。あと、西16枚目の錦木が6勝に留まったのは意外だった。初日から5連勝したので、この地位の錦木なら当然だし、2桁は勝つだろうと思ったら、まさかの6連敗で一気にピンチに。ひとつ勝って連敗を止めるのがやっとで残り3日も負けて6勝9敗。攻めては足が流れ、残る際も腰はいつもより軽いように見え、あっさり土俵を割っていた。来場所は十両かも。

あら、平幕下位に一番紙幅を費やしてますね。

十両といえば、東3枚目の宝富士が5勝しかできなかった。左ひじの具合がよくないのか。来場所の成績如何ではこのまま引退になりかねない。ちょっと心配だ。

と、今回はいつも以上に長々と書いてしまった夏場所。大の里以外にも話題に事欠かなかったということだろう。これだけ楽しませてくれるとファンとしても楽しいし、嬉しい。来場所もまた話題豊富な場所になりそうなので、大いに楽しみだ。

今回はこんなところで。