国鉄時代の時刻表
私が本格的に旅を始めたのは高校1年が終わった春休み、昭和62年のことである。青春18きっぷを使って秋田まで行っている。秋田で泊まらずに青森まで行っていれば、青函連絡船にも乗ることができていたのだが、当時はそこまで思いを致すことができなかった。今となっては惜しいことをしたと思っている。
昭和62年の春というと4月1日に国鉄からJRに変わるという画期となった時期である。これは旅へ出る一つのきっかけとなった。旅に出ようと画策したのはその3年前、中学2年の夏休みが最初であった。それまで単に鉄道が好きなだけで知識などまるでなかった少年は、このときから明確に鉄道を趣味としたのだ。私は今なお国鉄が好きな一人であるが、実際に関わった年月はわずか数年のことであった。今のJRの惨状を見るにつけ、いっそのこと国鉄に戻ればいいのにと強く思うのである。
国鉄時代に初めて時刻表を買ったのはその中学2年の夏、昭和59年7月号で、何も分からず「大時刻表」を選んだ。当時は日本交通公社の「国鉄監修・交通公社の時刻表」と弘済出版社の「大時刻表」が双璧をなしていた。それは今も変わらず、旧弘済出版社が現交通新聞社の「JR時刻表」、旧日本交通公社が現JTBパブリッシングの「JTB時刻表」となっており、出版社の名前は変わっているけど、それぞれ同じ会社である。監修は国鉄時代が交通公社、JRになってからは交通新聞社と入れ替わっている。でも、私が買っていたのは国鉄時代が「大時刻表」で、JR以降は「JTB時刻表」と天邪鬼なことになっている。
で、国鉄時代にリアルタイムで購入した時刻表は上記の他に昭和60年9月号、昭和61年3月号、11月号とわずか4冊にすぎない。これをダイヤ改正にあてはめてみると、それぞれ昭和59年2月、昭和60年3月、昭和61年3月と11月という具合になっている。これからも分かる通り、ダイヤ改正になると時刻表を買うという行動を始めたのは昭和61年からである。JRになってからはダイヤ改正ごとに購入していて、ごく小規模な改正を除けばほぼ買っている。そして、ここ10年は改正の度に「改悪の間違いだろ」とツッコむのである。
さて、タイトルだが、たった4冊しか買っていない時刻表のことを書こうと思ってのことではない。先に「リアルタイムで」と書いているのだが、つまり、リアルタイムでない時刻表もあるわけだ。というより、リアルタイムで買っていない時刻表のほうが圧倒的に多い。国鉄との付き合いを考えるとそれは当然だろう。今回はそれを見ていこうと思う。
それはほぼ復刻版の購入という形で集められている。JTBが主だったダイヤ改正の時刻表を何冊かまとめて発行している。古書店を探して回る手間が省ける上に新品の状態なのだからありがたい限りである。ただ、全部で8セットあるが、どれも絶版ではないかと思う。
ところで最近、JTBが復刻版として過去の節目となったダイヤ改正の時刻表をこれまでのセットではなく、単品で出している。が、残念なことに広告部分が空白になっている。歯抜けになっている上に当時の流行りや世相なども分からない。時刻や列車が分かれば時刻表としての役割は果たせるにしても、やはり時代を映す広告あっての時刻表だと思うのだ。その広告を見て旅館へ電話をかけるような人もいなければ、証券会社へ行って「鉄道債券をください」という人もいないだろう。私からするとちょっと残念な復刻版だと思っているから従前の完全復刻のバージョンを望んでいる。その中から1冊だけ昭和62年3月号をこの復刻版で買っている。翌4月号は冒頭の旅の際に購入しているからことさら買うこともなかったのだが、交通公社版としては国鉄最後の時刻表だったので買いました。
話を戻そう。では、いったいいつの時刻表を持っているのか、一覧にしてみた。ついでに歯抜けになっている未購入の改正号も載せてある(※印)。JR化後の時刻表は先述の通り、ほぼ購入しているのでここには記載していない。
年 | 月 | 主な内容 | 復刻版収録 | 備考 |
1925(大正14) | 4 | 交通公社時刻表第1号 | 戦前戦中編 | |
1930(昭和5) | 10 | 超特急「燕」運転開始 | 戦前戦中編 | |
1934(昭和9) | 12 | 丹那トンネル開通 | 戦前戦中編 | |
1940(昭和15) | 10 | 戦前の黄金時代 | 戦前戦中編 | |
1942(昭和17) | 11 | 関門トンネル開通 | 戦前戦中編 | |
1944(昭和19) | 12 | 特急廃止 | 戦前戦中編 | |
1945(昭和20) | 7 | 敗戦直前のダイヤ改正 | 戦前戦中編 | |
1947(昭和22) | 1 | 優等列車全廃 | 戦後編1 | 古書店 |
1947(昭和22) | 6 | 優等列車復活 | 戦後編1 | 古書店 |
1948(昭和23) | 7 | 戦後初の全国ダイヤ改正 | 戦後編5 | |
1949(昭和24) | 9 | 特急復活 | 戦後編5 | |
1950(昭和25) | 10 | 特急の速度が戦前の水準に回復 | 戦後編1 | 古書店 |
1952(昭和27) | 5 | 戦後編5 | ||
1953(昭和28) | 3 | 山陽本線特急復活 | 戦後編5 | |
1954(昭和29) | 10 | 特殊列車を普通急行化 | 戦後編5 | |
1955(昭和30) | 8 | 1等寝台車廃止 | 戦後編5 | |
1956(昭和31) | 11 | 戦後編3 | ||
1956(昭和31) | 12 | 東海道本線全線電化 | 戦後編1 | 古書店 |
1958(昭和33) | 11 | 20系客車、151系電車、東北初の特急 | 戦後編3 | |
1959(昭和34) | 7 | 紀勢本線全通(最後の本線) | 戦後編3 | |
1960(昭和35)※ | 6 | 1等車廃止 | ||
1961(昭和36) | 9 | 戦後編3 | ||
1961(昭和36) | 10 | 全国白紙ダイヤ改正 | 戦後編1 | 古書店 |
1962(昭和37)※ | 10 | 広島電化 | ||
1963(昭和38)※ | 10 | 全国ダイヤ改正 | ||
1964(昭和39) | 9 | 戦後編3 | ||
1964(昭和39) | 10 | 東海道新幹線開業、山陽本線全線電化 | 戦後編2 | |
1965(昭和40) | 11 | 全国ダイヤ改正 | 戦後編4 | |
1967(昭和42) | 9 | 戦後編4 | ||
1967(昭和42) | 10 | 全国ダイヤ改正 | 戦後編2 | |
1968(昭和43) | 10 | 全国白紙ダイヤ改正 | 戦後編2 | |
1969(昭和44) | 5 | 等級制廃止 | 戦後編2 | |
1969(昭和44)※ | 10 | 全国ダイヤ改正 | ||
1970(昭和45) | 8 | 戦後編4 | ||
1970(昭和45)※ | 10 | 熊本-鹿児島電化 | ||
1971(昭和46) | 10 | 秋田-青森電化 | 古書店 | |
1972(昭和47) | 2 | 戦後編4 | ||
1972(昭和47) | 3 | 山陽新幹線岡山開業 | 戦後編2 | |
1972(昭和47) | 12 | 1972年10月改正分・L特急登場 | 戦後編4 | |
1973(昭和48)※ | 10 | 山陽本線優等列車増強 | ||
1974(昭和49) | 10 | 1974年4月改正分・幸崎-宮崎電化 | 古書店 | |
1975(昭和50) | 2 | 戦後編4 | ||
1975(昭和50) | 3 | 山陽新幹線博多開業 | 昭和後期編 | |
1976(昭和51) | 4 | 昭和後期編 | ||
1976(昭和51)※ | 7 | 長崎本線、佐世保線電化 | ||
1978(昭和53) | 10 | 全国白紙ダイヤ改正 | 昭和後期編 | |
1979(昭和54)※ | 10 | 宮崎-西鹿児島電化 | ||
1980(昭和55) | 10 | 国鉄初の減量ダイヤ | 昭和後期編 | |
1981(昭和56)※ | 10 | 石勝線開業 | ||
1982(昭和57)※ | 6 | 東北新幹線開業 | ||
1982(昭和57)※ | 11 | 上越新幹線開業 | ||
1984(昭和59) | 7 | 1984年2月改正分・貨物列車ヤード輸送廃止 | ||
1985(昭和60) | 9 | 1985年3月改正分・東北新幹線上野開業 | ||
1986(昭和61) | 3 | 内山線開業 | ||
1986(昭和61) | 11 | 国鉄最後のダイヤ改正 | ||
1987(昭和62) | 3 | 民営化直前 | 復刻版 |
こうして見ると、戦後はなかなかの充実ぶりだ。復刻版だけでこれだけ揃っているところへ※印の号を加えると戦後のダイヤ改正は抑えられると言っていいだろう。ただ、この11冊を買い揃えるとなるとかなりの出費を覚悟しなければならないと思われる。
この中で気になるのは「昭和後期編」で、その箱には予告のような形で「昭和後期編2」と記されていた。が、それは出ることなくもう20年ほどが経っている。多分、昭和57年以降、民営化までの5冊くらいが収録される予定だったのだろう。わずかな期間に大きな改正がいくつもあったからなかなか面白いと思うのだが、今からでもいいので出してもらえませんかね?
これはあくまでJTBもしくは日本交通公社の時刻表であって、他社からもっと古い、明治や大正時代の時刻表も出されているのだが、購入していない。けっこう高い代物だからだ。新人物往来社から出ている「復刻版明治大正時刻表」がそれで、10冊セットで38,000円也(税別)。今の時刻表のイメージで復刻版1冊あたり3,800円というのは安いのかもしれないけど、当時の小さな薄い時刻表が3,800円と考えるとどうだろう。発行されたのは1998(平成10)年なので絶版の可能性があるが、中古ならネットで販売されている。どうしよう。
過去の時刻表など集めてどうすると思われそうだけど、当時の列車や鉄道事情などが分かる一級史料として重要だ。その道の研究者ではないけど、「あのとき、あの列車は走っていたっけ?」とか「食堂車やビュフェが連結していた時期は?」とか「今ではあり得ない列車」とかちょっとした調べ物をするのにたいへん便利である。こうやって記事を書く場合でも曖昧な部分があれば確証を得るために紐解くことは多々ある。なので、やっぱり必要だ。
長々と書きましたが、今回はこんなところで。
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