令和7年大相撲秋場所 まとめ
大相撲秋場所は16年ぶりの横綱同士の優勝決定戦の末、大の里が13勝2敗で5回目の優勝を飾って終わった。
千秋楽結びの一番は大の里が豊昇龍の立ち合いを気にし過ぎて踏み込みもなく、立ち腰で受けたため、一方的に押し出された。これは前日の14日目に豊昇龍が関脇・若隆景に見せた立ち合いの変化が頭によぎったのに他ならない。しかし、決定戦ではそれをすぐ修正。鋭く踏み込むと右を差して攻めていった。土俵際、左で上手投げを打ってくる豊昇龍に体を預けながら寄り倒すも両者もつれながら土俵下へ落ちる。軍配は大の里。物言いがついたものの、軍配変わらず大の里。毎場所見られる、攻める大の里に対して、それを豊昇龍がかわして投げるパターンではあったけど、今場所は堪えた。この相撲、豊昇龍を追い詰めたときに大の里は渡し込みをしようとしたが、それはやらなかった。もし、渡し込んでいたら物言いはつかなかっただろう。豊昇龍は立ち合い、微妙に動いて左上手を取りに行っていた。これはいただけない。14日目と一緒、結局これが右差しを許し、墓穴を掘る形になってしまった。
これは豊昇龍の悪い癖だ。癖なのかどうか分からないけど、自信がないと変化に走るきらいがある。これまで何度も見てきた光景だ。横綱になっても続けているところをみるとやはり自信がないのだろう。初日から11連勝できていたのに12、13日目と連敗したのが原因か。「地位が人を育てる」とはいかないようだ。自信がないから変化をする、無理な投げで怪我も多いでは横綱にふさわしくない。なにより横綱の矜持とか「恥」というものはないのだろうか。理事長も親方の立浪もあの相撲を勝つためには仕方ない、といったニュアンスでコメントしていたのが残念でならない。興行のためには結果は問わないのか、誰も叱らないのか。
なので、決定戦になった、熱戦だった、と素直には喜べないのだ。
両横綱の話はこのくらいにして、今度は大関以下の力士をみていこう。
大関・琴櫻は残念というしかない。場所前は優勝候補にも注目力士にも挙がらないほど影が薄かった。琴櫻、どこにいる?状態だったが、今場所は両横綱が終盤まで全勝と1敗で勝ち進んだため、結果的にいつもどおり早い段階から姿を消したものの、11日目に勝ち越し、13日目には横綱・豊昇龍を寄り切りで完勝した。優勝した去年の九州以来の2桁勝利も見えてきたところで、この相撲に勝った土俵で右ひざを痛めて14日目から無念の休場。9勝4敗2休で終わった。心配なのはサポーターをしていた左ひざではなく、右ひざだったことだ。両ひざを痛めたとなると今後上を目指すのは厳しそう。これまで通り大関の地位を守るのに精いっぱいの場所が続くのだろうか。今場所はよく攻めていたし、攻められても粘って逆襲する相撲が多く見られていたので、これが続くようならゆくゆくは両横綱に追随できると思っていた。それだけに残念でならない。これを機に体重を減らしてひざにかかる負担を減らすことを考えてみてはどうか。見るからに締まりがなく、太り過ぎている。
関脇・小結は西小結・安青錦が11勝した以外は負け越し。東西の関脇、若隆景と霧島はともに6勝。東小結・高安は7勝だった。特に大関昇進がかかっていた若隆景は今場所はどうも軽かった。いつものおっつけも威力が弱く、粘りも感じられなかった。テコでも動かないといった相撲ではなかった。9日目以降はが1勝6敗というのが気になる。霧島も同様で、4連勝スタートしたのに4連敗。それからは簡単に寄られたり、投げられたりで安定感に乏しかった。高安は初日からの6連敗が響いた。後半追い上げたけど、時すでに遅し、11日目に大の里に敗れて負け越し。が、以降はすべて勝って7勝としたのはよかった。
安青錦は新三役の今場所もこれまで通りの前に落ちない相撲で11勝と、新入幕から4場所連続で11勝を挙げるという快挙。これは史上初のことだ。前に落ちない、前傾姿勢を保って体が起きない。腰も低く、セオリー通りの相撲を取る。しかも、無双を切ったり、13日目の豊昇龍戦で見られた切り返しなど小技もあるので、見ていて面白い。今場所も受賞した技能賞にも納得だ。来場所の関脇は上記の通り2つとも空くので、安青錦はそのひとつに座ることになりそうだ。で、大関昇進の目安は三役で3場所33勝というのが目安となっているのは周知の事実。が、安青錦のこの成績を見て杓子定規でいいのかと思ったりする。先場所は東の筆頭で11勝している。対戦相手は今場所とほぼ同じ。で、今場所も11勝を上げている。なので、来場所もし同等以上の成績を残したら、三役3場所ではないけど大関に上げてもいいのではないかと。審判部もその可能性を否定しなかったというから、成績次第ではあるいは初場所で大関・安青錦の誕生もあり得るということだ。だとしたら、大いに楽しみだ。
つづいて平幕にいきましょう。
上位はなかなか厳しい結果になった。勝ち越したのは東西の2枚目の伯桜鵬8勝と王鵬10勝、これも東西の4枚目の平戸海8勝と若元春9勝だった。勝ち越し、負け越しに関わらず、ほとんどの力士が両横綱と琴櫻に敗れている。このことからも今場所はいかに横綱と大関が安定していたかが分かる。伯桜鵬は自己最高位で勝ち越し。勝っても負けてもよく攻める。殊勲賞の理由となった4日目の大の里戦での勝利は攻め続けた結果だ。しかし、7日目の霧島戦で腕を極められ、右腕を傷めてしまった。翌日からはテーピングをぐるぐる巻きにして出場して、千秋楽に勝ち越した。王鵬は横綱には敗れたものの、琴櫻には勝った。小結以上にはほぼ互角の3勝4敗、平幕同士だと7勝1敗だった。安青錦とともに東西の関脇でいいと思う。小結には東・若元春、西・高安もしくは平戸海か。東7枚目で敢闘賞受賞の隆の勝もあるのかもしれない。東筆頭の玉鷲は6勝と三役復帰はならなかったが、千秋楽をはじめ今なお突き押しは強烈で、攻め込まれたときの突き落としもまた強い。来場所2桁勝てば、三役が見えてくるか?
それにしても、それ以外の力士の成績は目も当てられない。特に豪ノ山の1勝というのはどうしたことか。相撲内容はまったく悪くない。いつもの豪ノ山の相撲だった。なのに、勝てない。立ち合いぶちかましてからの押しで攻めるも土俵際での逆転負けが多かった。でも、あまりに勝てない状況下でも自分の相撲を貫いたのは立派なことだ。このひたむきさは失わないでほしい。どこかの横綱に爪の垢を煎じて飲ませたいくらいだ。また、先場所優勝の琴勝峰は3勝。どこか悪かったようで、持ち味はほとんど発揮できず、まったく成績が伸びなかった。他に西筆頭の阿炎が3勝、東3枚目の熱海富士が5勝と惨敗。実力者でもまさかの成績に終わり、来場所は出直しとなる。
中位は東7枚目の隆の勝が優勝次点、敢闘賞の12勝、東8枚目の宇良が10勝といったところが目を引く。隆の勝は右からの攻めが光った。押せば腕が伸び、差せば一気に走り、相手の攻めにも下がらない安定感があった。これぞ隆の勝の相撲で、関脇で10勝していたときの相撲を見るようだ。宇良は今場所は前へ出る相撲が目立った。押しがなかなかよく、技能賞をあげてもよかったのにと思った。西6枚目、期待の草野は千秋楽で勝ち越した。まだこれからといった状況だけど、少しずつ上がっていけばいい。
西9枚目の藤ノ川は先場所、新入幕で10勝してここまで上がってきたけど、今回は力及ばす6勝。小さいのに真っ向勝負で挑むところに好感が持てる。とにかく低い姿勢で攻めるのがいい。それから休場明けで東10枚目の大栄翔は7勝止まり。左ふくらはぎの怪我で先場所は全休して関脇からここまで落ちた。復活を期待したけど、2日目からの5連敗があり、後半は盛り返したものの、13、14日目に連敗して負け越した。稽古不足は如何ともしがたく、来場所こそ勝ち越したい。この地位にいるような力士ではない。
下位は東11枚目の正代が久々の10勝。よく攻めていた。動きもよかった。一番だけ組まれた役力士との対戦は11日目の安青錦戦であったが、寄り倒しで勝った。多くの力士が苦戦する中、胸を合わせて攻めを休めなかった。その11日目までで9勝2敗だったけど、あとは息切れしたのか3連敗。これもまた正代らしいが、千秋楽に勝って10勝に乗せた。この地位で10勝だと来場所は真ん中あたりかと思われるが、ご当地場所になるので頑張ってほしい。それから東18枚目の獅司が自身初の2桁10勝を挙げた。頭を付けて、相手を中に入らせない相撲で4連勝が2回と好調であった。東15枚目の翔猿が今年初めての勝ち越しで9勝、東16枚目の友風は6年ぶりの幕内勝ち越しでこれも9勝だった。怪我に泣かされる場所が続いて序二段まで落ちていただけに喜びもひとしおだろう。翔猿は相変わらず間の取り方がうまく、友風は押しもさることながら引き足が早く、はたきがよく決まる。いずれも持ち味がよく出ていて、見ていて楽しかった。
東13枚目の明生が5勝、東14枚目の佐田の海が6勝とギリギリ幕に残れるかどうかといった成績に終わった。特に佐田の海は幕内での相撲をまだまだ見たい。攻める場面もあったけど、攻め急いでいたのか、土俵際の逆転や相手の引きにやられていた。西16枚目の錦木はどうしたことか。蜂窩織炎にかかって十分なけいこができなかったこともあり、まったく相撲になっていなかった。攻めても引かれ、守っても粘りがなく、簡単に土俵を割ることが多かった。結局、1場所で十両に落ちることとなった。腰の重い、安定感のある相撲をまた見たいので早く幕に戻ってきてほしい。
とまぁ、今回は冒頭で長々と書きすぎたので紙幅をかなり費やすことになった。盛り上がったような、冷めたような、ちょっと変な気持ちになった今場所でした。来場所はそんな気持ちにさせないような相撲を期待して終わろうかと思います。今回はこんなところで。




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