令和5年大相撲初場所 総括

今年最初の大相撲は大関貴景勝が優勝し、出場力士のうち番付最高位としての面目を保った。まる2年遠ざかっていただけに嬉しさもひとしおだろう。おめでとうと言いたい。このところ、ずっと平幕力士に優勝をさらわれていただけに看板力士の優勝は協会も胸をなで下したに違いない。ただ私的には横綱不在、自分が最高位であれば、全勝は無理でも13勝、いや14勝はしなければならないと思うのだけど、厳しいでしょうか?

今場所前、四つ相撲を練習をしているということを聞いた。寄り切りはなかったけど、小手投げや千秋楽のようなすくい投げといった投げ技が3番あった。これは組まないと繰り出せないから練習の成果が少しは現れたということか。押し相撲だけで横綱は厳しいから、この試みはいいと思う。平幕の北勝富士もこの1、2年は組む相撲が増えていて、相撲の幅が広がっている。また、関脇の若隆景も得意のおっつけだけではなく、まわしを取る相撲に取り組んでいる。一つ上のステップに上がるためにこういうことはどんどんやるべきだ。

休場した横綱・照ノ富士はリハビリ中だという。それなら来場所も厳しいだろうから、もうひと場所様子を見てもいい。

では、関脇以下の力士を見ていこう。

東関脇の若隆景は不得手の序盤でやはり2勝と振るわず、中盤以降盛り返したものの、結局は9勝止まり。最近は圧力をかけたいためか前のめりになる相撲が見られ、よく前に落ちている。以前はこんなことはなかった。つっかえ棒を外されるとばったりだ。ちょっと安定感に欠けているように見える。これが1年も関脇にいるのに、星が伸びない原因なのではないか。次に西関脇・豊昇龍。中日まで6勝2敗と好調だった。しかし、9日目に若元春に敗れた際、左足首を痛めた。花道を引き上げる姿を見ると歩くのがやっとで、出場は無理かと思われた。ところが、10日目を休場しただけで11日目からは再出場し、そこでなんとか2勝して勝ち越した。大関獲りは振り出しに戻ったけど、関脇から落ちなかったことは大きい。もっとも、千秋楽は相撲に負けたけど、阿武咲の反則(まげつかみ)に救われて、勝ちを拾っただけに納得はいっていないだろう。ただ、以前も書いたけど、足腰がいいので投げに頼りすぎている面がある。見た目には面白いけど、安定性がない。それが今回の怪我につながったのではないかと考えている。

あとの2人の関脇、高安は足を痛めて休場、正代は中盤から終盤にかけて4連勝があったが、最終的に6勝で大関復帰は叶わなかった。というより、これまでの相撲を見ていて復帰すると思っていた人など皆無だっただろう。先場所の御嶽海に続き、正代もひと場所で三役からも落ちそうだ。

小結は東2枚目の明生以外が勝ち越した。東の霧馬山が11勝を挙げたのは立派だ。優勝争いには絡めなかったけど、次点の成績だ。足腰のよさがよく出た場所であった。西の新小結・琴ノ若は序盤4連敗して三役はまだ無理かと思ったら、以降を8勝3敗、11日目には貴景勝に勝つなど本来の厳しい相撲が見られた。西2枚目の若元春も新小結で、こちらも序盤3連敗スタートだったけど、すぐ盛り返して9勝を挙げた。今や弟の若隆景よりも安定感があるのではないかと思う。

昨年の秋場所は若隆景が11勝して九州は大関獲りの足場固めといわれたが、8勝しかできなかった。その九州場所で豊昇龍が同じく11勝し、今場所に臨んだものの8勝に終わってしまった。そして、今場所の霧馬山が11勝だ。これで来場所霧馬山が8勝で終われば、まさにドングリの背比べだ。誰か抜け出さないもんですかね?

ここで来場所の三役の番付がどうなるか考えてみる。今場所は横綱1人、大関1人に関脇4人、小結4人とアンバランスな番付になっている。では、春場所はどうだろう?横綱と大関は変わらないから、今場所同様関脇と小結を増やして、豪華に見せると思われる。でも、この定員増が水増しと思わせないほどに若手が成長し、番付を賑わしているから、いましばらくは関脇も小結も3、4人置いていてもいいと思う。平幕上位に渋滞させるよりずっといいだろう。

来場所も4人ずつ置くと仮定する。そうしないと、役力士同士の取組が少なすぎて興行的にもまずい。休場者が出るとなおさらだ。関脇は4人中2人が平幕に落ちるので、そこに2人上げることになるのだけど、東小結で11番の霧馬山は確定だろう。9勝の若元春が上がるかどうか。小結は霧馬山と若元春が上がれば琴ノ若だけが残ることになる。3枠が空くわけだけど、番付から見ると東筆頭・相手との距離をうまくとる翔猿が8勝、西筆頭・大栄翔が突き押しが光る10勝、西2枚目・依然突きが強烈な玉鷲が9勝の3人が上がりそう。

平幕はどうだったのだろうか。

先場所優勝の東3枚目・阿炎は序盤5連勝で九州場所の勢いを維持した相撲内容だったが、6日目から4連敗。あとは勝ったり負けたりでかろうじて勝ち越した。平幕優勝の翌場所は負け越すことが多い中、勝ち越すのは力がある証拠だろう。しかし、中盤以降の失速が気になる。しかも、この地位での8勝では来場所の三役復帰も厳しそうだ。

先場所、勝ち越したのに同じ地位に据え置かれた西3枚目・翠富士と西4枚目・佐田の海はともに6勝といまひとつの成績で来場所は落ちることになる。ちょっとかわいそうだ。その一方で、東西の5枚目の竜電と錦木は持ち味を発揮してともに9勝。竜電は懐の深さを活かした相撲、錦木は圧力で相手を圧倒し、腰の重さで攻め込ませなかった。

西7枚目の宇良はらしい相撲で勝っていたのに終盤の5連敗が響いて7勝止まり。千秋楽に勝って7勝としたのはよかった。そのすぐ下、西8枚目の王鵬は初日から6連敗、一つ勝ってまた5連敗とあの残念だったころの相撲に戻ってしまった。初めての幕内中位とはいえちょっと負けすぎだろう。それでも、最終盤に先場所の力強い相撲を思い出して3連勝、4勝11敗として来場所はなんとか幕内に残れそうだ。

中位で好成績なのは東8枚目・阿武咲だろう。10勝2敗から最後は3連敗してしまったが、場所を盛り上げたのは間違いない。貴景勝との激しい相撲は攻防があって面白かった。気持ちのいい突き押しが久しぶりに帰ってきた場所だった。小結に駆け上がっていたころの相撲で、下からの攻めで相手を突き上げて、体を浮かせる。あんな相撲を取られたら相手はひとたまりもない。来場所は上位と当たる地位まで上がるので楽しみだ。同じ中位で勝ち越した中に平戸海がいる。右を差して攻める相撲はいいものがある。また腰が重く、守りも強い。10日目で7勝だったから2桁勝つかと思ったら8勝に終わった。相手も研究してくるからなかなか勝てなくなるけど、頑張ってほしい。取り口が錦木に似ている。

下位では琴勝峰だろう。千秋楽結びの一番で貴景勝との相星決戦に臨み、敗れはしたけど、最後まで場所を盛り上げた。それに今場所は入幕してきたころのうまい、速い相撲が目についた。この1年ほど怪我で琴ノ若に追い抜かれていたけど、これを反転攻勢の機会として切磋琢磨してほしい。この地位で他に目立つのは10勝を挙げた一山本だろう。長い手足で突っ張ったりいなしたりして狭い土俵をうまく使っている。相撲っぷりは阿炎の初めのころのそれに似ていて、飛んだり跳ねたりの相撲内容だけど、徐々に落ち着いてくるだろう。あと、西14枚目の東龍が幕内10場所目で初めて勝ち越したことと東16枚目のベテラン宝富士の勝ち越しが私にとっては嬉しかった。

続いては幕内と十両の入れ替わりの予想。幕内から十両へ落ちるのが逸ノ城、栃ノ心、千代丸、それから引退した隠岐の海の4枠は確定だろう。王鵬はかろうじて残りそう。代わりに上がりそうな候補が西筆頭・武将山9勝、東2枚目・北青鵬9勝、東4枚目東白龍9勝、東5枚目・金峰山11勝、西6枚目・大翔鵬12勝といったところだろうか。となると、14勝を挙げて十両優勝を成し遂げた朝乃山は西12枚目ということもあって、幕内復帰は微妙だ。14勝1敗なので、13点の勝ち越し=13枚上昇と単純に考えると幕尻あたりに滑り込むことができるかもしれない。それで当てはめると東白龍は厳しい。それ以外の5人は昇進できるだけの星勘定となっているので、あとは運に任せるしかない。

幕内から落ちそうな力士のうち、逸ノ城は不祥事による休場で、体のほうは心配ないけど、心境面でどうだろうか。それより心配なのは栃ノ心で、膝のサポーターがいつも痛ましい。この年齢で一度十両へ落ちると再び入幕するのは難しいかもしれない。

最後にひとつ。先述の通り、隠岐の海が引退した。最高位は関脇であった。長身で懐が深く、左四つ得意で、右で上手を引けば強かった。前さばきもよく、なかなか器用であった。でも、今場所は初日から5連敗を喫したところで引退の決断をした。まだ活躍する姿を見たかったけど、ご苦労様と言いたい。先場所は千代大龍と豊山が引退即廃業となり、数年前に引退した元豊ノ島の井筒も今年に入って廃業するといった動きがあるから、隠岐の海の今後がちょっと気になる。協会に残るからいい、去るからダメというわけではないのだけど。

というわけで、どんな番付になるのやら、また照ノ富士はどうなるのか三役陣の顔触れは…などなど話題の尽きない春場所となるだろう。今回はこんなところで。