令和5年大相撲春場所 総括

3月12日から始まった春場所が26日に終わった。それでは、さっそくみていこう。

場所の焦点は大関・貴景勝の綱獲りであった。しかし、3日目に膝を痛め、その後も出場したものの、6日目に御嶽海に敗れると7日目から休場し、綱獲りはおろか来場所は一転カド番になってしまった。横綱・照ノ富士は初日から休場しており、なんと横綱、大関不在の異例の場所となった。これは昭和以降初めてという。では、それがいつ以来なのかは調べてみたけど、分からない。それでも90年以上はなかったということだから異常事態には違いない。

が、その不安をよそに場所は盛り上がり、場所を制したのは新関脇の霧馬山であった。2敗でトップの小結・大栄翔と3敗の霧馬山の直接対決が結びに組まれた。本割で突き押しで大栄翔が攻めるも土俵際で右からの強烈な突き落としで霧馬山の逆転勝ち。そして、星が並んだ優勝決定戦も攻め込む大栄翔をうまくはたいた霧馬山が勝ち、逆転優勝した。大栄翔は2番とも同じような負け方でもう一歩が出なかった。

霧馬山は前まわしを取るのがうまい。時折り両前まわしの引いて拝む格好になる。しかも、頭を付けるから相手は苦しくなる。なかなか堅実な相撲を取る印象だ。以前はちょっと粗い相撲もあったけど、それが徐々になくなってきて安心して見られるようになった。これで連続2桁勝利となり、来場所は大関獲りの場所となる。決められるか?

関脇3人は他に東・若隆景、西・豊昇龍がいた。豊昇龍も霧馬山同様、連続2桁勝利を挙げて来場所はこれも大関獲りとなる。成績によっては2人同時昇進もあり得る。これは霧馬山にも言えることだけど、豊昇龍は足腰が強い。だから、投げに頼る相撲を取ることが多い。それが先場所の足首に怪我に至ったのではないかと私は思っている。見た目には派手で面白いけど、上を目指すのならそういうリスクと隣り合わせであることを自覚するべきだ。

それにしても、残念だったのは若隆景だ。初日から5連敗していつも以上に出だしが悪かった序盤を終えると、そこから7勝1敗と盛り返す。しかし、7勝目を挙げた13日目の琴ノ若戦で膝を痛めてしまった。さらにその相撲が取り直しとなり、そこで勝ったものの、勝ち名乗りを受ける際のそんきょはまともにできていなかった。これは相当悪いぞと思ったら、翌日から休場した。半月板の損傷などで全治3か月と診断された。これは来場所、あるいはその次の場所も出場が危ぶまれる重傷だ。1年前の同じ春場所で新関脇で初優勝して以来7場所連続で関脇の座を守ってきた。でも、序盤の取りこぼしが多く大関へ上がれそうな気配はあまり感じなかった。言葉は悪いけど、もたついている間に怪我をしてしまったように見える。といっても、起きてしまったことは仕方がない、ここはじっくりと治して再起してほしい。中途半端に出てきてかつての照ノ富士のようになってはいけない。あのおっつけと前さばきは魅力的なだけにこれで終わるのはもったいない。

小結もよかった。東・若元春、西・琴ノ若、東2・大栄翔、西2・翔猿という陣容だったが、翔猿以外が勝ち越した。しかも、若元春と大栄翔が2桁勝利と内容も充実していた。琴ノ若は千秋楽の若元春戦で2桁を狙ったが、土俵際逆転の打っちゃりで敗れ、残念ながら9勝止まり。若元春も若隆景と同じでおっつけと前さばきがいい。足腰もよく、柔らかさもある。琴ノ若は9勝に終わったとはいえ、懐が深く、柔らかい。しかも、攻めが厳しくなった。大栄翔は突き押しが冴えた。常に相手に正対できたから突きも押しも的確に相手を捕えていた。しかし、優勝は捕えることができなかった。翔猿は負け越したとはいえ、6勝を挙げた。次の三役では勝ち越したい。

ということで、3関脇、4小結だった今場所は5人が勝ち越し、うち4人が2桁勝利と横綱大関不在の場所の屋台骨を支えた。私はここ1、2年三役や平幕上位の常連である彼らをドングリの背比べと揶揄していたが、こういうドングリなら見ていて楽しいし、面白い。これを今場所だけで終わらせることなく切磋琢磨してほしい。

平幕上位はなかなか厳しい結果となった。三役力士があれだけ勝てばそうなるのも仕方がない。5枚目までの10人のうち、勝ち越したのは3人だけ。4人が2桁敗、東5枚目・阿武咲は途中休場と振るわなかった。

その中にあって勝ち越した力士を見ていこう。西筆頭の正代は責任から解放されたせいか、大関復帰のノルマもなくなったせいか、本来の相撲が取れていた。踏み込みがよく、だから圧力も強く、よく前へ出ていた。何より攻めが厳しかった。最後は4連勝で10勝を挙げた。この地位で2桁勝てるのはやはり力がある証拠。大関時代が嘘のように動きがよかった今場所であった。うがった見方はしたくないけど、大関から落ちたかったのだろうか?今のほうがのびのびと相撲が取れているように感じる。また、西2枚目・阿炎は実力者の片りんを見せて9勝、千秋楽の取組では遠藤を弾き飛ばしていた。そして、悔しい思いをしたであろう西5枚目の翠富士。初日から10連勝して優勝争いの単独トップに立ったが、それから5連敗してしまった。勝てば敢闘賞という千秋楽の一番も2桁をかけた正代の前に屈して三賞すらも逃してしまった。10連勝したことで、最後は三役力士との取組が続き、星を伸ばせなかったが、これはいい経験になったと思う。来場所は上位総当たりの地位に上がるから楽しみである。しかし、それにしても最近は翠富士の肩透かしを見なくなったように思う。やらなくても勝てるようになったのか、相手に研究されてきて控えているのか。その代わり、小さいのによく繰り出せたなと思ったのが割り出しだ。リアルタイムでこれを見たのは初めてだ。

東筆頭の玉鷲は2日目からの8連敗が響いて3勝しかできなかった。今場所は突きの圧力が弱かった。だから、相手に力が伝わらず、組まれたり、いなされたりして勝てなかった。いつもなら決まる土俵際での小手投げや突き落としも相手を呼び込む形になることが多く、これも圧力不足が原因だろう。これだけ負けが込むと来場所は平幕中位から下位まで番付を落としそうだ。さすがにそこでなら勝ち越すだろう。いつもの玉鷲なら2桁は勝てそうだけど、ここで負け越すようだといよいよ衰えがきているということか。東4枚目の御嶽海も4勝とこちらも番付を落とす結果になった。力がまるで入っていない。攻めも弱ければ、攻められての粘りもない。去年の夏場所に痛めた右肩がまだ癒えていないのだろう。負け方が同じだ。大関から落ちた正代と御嶽海、対照的な印象だ。東5枚目の琴勝峰は先場所貴景勝と優勝争いをした相撲を忘れたのか、初日から6連敗。消極的な相撲が目立った。9日目で早くも負け越すと、そこから突然目覚めて連勝。が、時すでに遅し。6勝に終わった。

平幕中位では東6枚目の遠藤が9勝。10日目に8勝して優勝争いに加わったが、そこから三役との対戦が続き脱落。千秋楽に2桁勝利を狙ったが、阿炎に敗れた。今場所は得意の左からの攻めが冴えていたが、あと一歩及ばなかった。西7枚目の高安が10勝した。初日から6連勝して今場所は優勝争いに加わるかと思われたが、中盤失速。それでも終盤に連勝して2桁に乗せた。高安の力ならこの地位での2桁はそう難しいことではない。かち上げからの圧力は健在だ。西8枚目、地元大阪出身の宇良は9勝を挙げて館内を盛り上げた。機を見ての一気の押しや俵を丸く使って回り込んだりも宇良らしい相撲だった。でも、頭を付ける正攻法の攻めは相撲の基本で、それがあるからいろいろ技を繰り出せる。西10枚目の錦富士は高安と同じような展開で千秋楽に10勝目を挙げた。伊勢ケ浜部屋らしい前さばきのよさ、左からの攻めがよかった。来場所は翠富士とともに上位で暴れてほしい。

西6枚目の佐田の海は前半1勝7敗とまったく振るわなかったけど、後半盛り返して5勝2敗で6勝に留めた。なかなか父の番付、小結に並ぶことができない。もう35歳、だんだん厳しくなってくる。東7枚目の北勝富士は典型的なツラ相撲、4連敗、7連勝、4連敗で負け越してしまった。いいときと悪い時の差が激しすぎた。東9枚目の碧山、東10枚目の妙義龍はそれぞれ6勝、5勝だった。ともにあまり粘りがなかった。攻めも精彩を欠いており、来場所は正念場を迎える。この2人も35とか36とかといった年齢なので、幕内を維持するのが難しいかもしれない。でも、一度十両に落ちてしまえば、なかなか幕に戻るのは困難なので頑張ってほしいものだ。

幕内下位は西12枚目の宝富士が2勝7敗から6連勝して勝ち越した。先場所に続く勝ち越しでこれでまた少しだけど番付が上がる。前半は得意の左が差せず、おっつけも弱く、しかも簡単に土俵を割る相撲が続いて負けが込んでいた。でも、後半は左をねじ込んだり、粘っての突き落としなど本来の動きが戻った。西13枚目・琴恵光は1年ぶりの勝ち越しは相当嬉しかっただろう。攻めがよかったし、おっつけも効いていた。新入幕の東14枚目・金峰山と東15枚目・北青鵬はいずれもスケールの大きい相撲を取って、それぞれ11勝、9勝した。金峰山は高安や阿炎を押し出す相撲など力強さがある。また、北青鵬は長身ゆえの懐の深さで相手に何もさせない相撲で、大関まで上がった貴ノ浪を思い出させる取り口だ。

同じ新入幕の西14枚目の武将山は前半1勝6敗、中盤から終盤にかけて5連敗するなど力を発揮できず、5勝しかできなかった。また、東11枚目・東龍、東12枚目・輝も2桁敗を喫してあまり振るわなかった。あと、振るわないと言えば、残念な王鵬だろう。初日から3連敗して、またダメかと思ったら中盤以降厳しい相撲で盛り返して、14日目に7勝としたまではよかったけど、千秋楽に敗れて負け越し。目覚めたのは去年の九州だけだったのか?これではいつまで経っても幕内下位から抜け出せない。琴ノ若のようにパッと一皮むけないものだろうか。

いろいろ書きましたが、ざっくりと今場所のまとめです。三役陣の充実ぶりを見ると来場所もまた関脇も小結も3人ないし4人になるだろう。横綱大関が不在状態では関脇小結が場所を引っ張ってもらわないと困る。来場所も場合によっては照ノ富士も貴景勝も休むかもしれない。もし、そうなると名古屋では大関が空位となってしまう。そうならないよう霧馬山にはぜひ大関をつかみ取ってほしい。今回はこんなところで。