令和6年大相撲初場所 まとめ

2024年3月30日

大相撲初場所は横綱・照ノ富士の9度目の優勝で幕を閉じた。先場所まで3場所連続で休場したこともあり、昨年の名古屋以来4場所ぶりとなる。正直、場所が始まったときは皆勤して10勝なら御の字だろうと思っていた。そこで土俵勘を取り戻して来場所に優勝すればいいだろうと。それが中盤以降調子を上げていき、13勝という好成績を挙げて終わったのは驚くよりほかない。

膝も腰も悪いのにしっかり腰を下ろして膝もよく曲がっていた。それにうまい。まわしを切ったり、相手の腕をたぐったりして、強さだけではないところを随所に見せていた。万全ではないかもしれないけど、それでもこれだけ強い。

では、順にみていこう。

大関陣は霧島が綱獲りに挑んだものの11勝に留まり、完全に振出しに戻った。13日目に豊昇龍に対して二枚蹴りで勝ったときは横綱誕生かと思わせたが、14日目に琴ノ若、千秋楽には照ノ富士に敗れてしまった。格下の琴ノ若に敗れたのも心象が悪いが、照ノ富士には完全に体が浮いてしまう完敗で内容もよくなかった。

続いて豊昇龍。5日目豪ノ山、6日目阿炎と連敗した以外は白星を重ねていたが、13日目の霧島戦で二枚蹴りを喰った際に痛めていた膝を悪くしてしまって悔しい休場。横綱大関に琴ノ若の4人でどこまでもつれるか期待していただけに残念だった。ただ、いつものことながら見た目は派手だけど、相変わらずの無理な相撲、雑な相撲で怪我とは隣り合わせだ。安定感という点では心もとない。

もう一人の大関貴景勝は首の痛みの再発で途中休場。来場所はカド番だ。満身創痍で厳しい土俵が続いているので成績にも波がある。そういう点は豊昇龍と共通している。貴景勝に関してはなんせ痛めているのが首なので無理をせずに勤めてほしい。

関脇はこれはもう琴ノ若だ。攻めの厳しさが際立った。簡単に下がらないし、差し身もいい。それにあの体格なので圧力がすごい。初受賞の技能賞も納得だ。結果、今場所はトップを譲らなかった。14日目に霧島を破り、千秋楽は本来なら豊昇龍戦だったが休場したため、くせ者の翔猿との顔合わせとなるも落ち着いてさばいて2敗のまま場所を終えた。同じ2敗で並んだ照ノ富士との決定戦は格の違いを見せつられて負けはしたものの、優勝同点は立派である。来場所の大関昇進が確実で、祖父のしこ名である琴櫻を襲名する予定だ。ちなみに相撲記事のときに貼ってあるアイキャッチ画像は家族で鳥取へ行った際に撮った琴櫻の銅像である。琴櫻は鳥取県倉吉市の出身だ。とはいえ、手放しでは喜べない。さらに上を目指すには横綱大関戦の分の悪さをどうにかしないと大きな壁として立ちはだかり続けるだろう。

西の大栄翔は今場所も9勝。突き押しはよく腕が伸びていたけど、突き落としにばったり落ちたり、いなしに横を向かされたりで少々精彩を欠いていたように見える。やはり、この辺りは突き押し力士の宿命か。それでも動きはよかったように思う。

小結は残念ながら2人とも負け越し。東の高安は場所前、好調が伝えられていたのに腰痛で3日目から休場、6日目から再出場したものの、今度は腰に加えてインフルエンザにもかかって再休場でわずか2勝。これでは評価のしようがないし、気の毒としか言いようがない。

西の宇良は新三役の場所で6勝を挙げた。中日までに貴景勝戦の不戦勝のみの1勝7敗だったが、後半は5勝2敗とした。千秋楽の竜電戦は伝え反りという珍しい技で勝っている。最後の最後に面白い相撲を見せてもらった。この分だとまた三役に戻ってこられそうだ。

平幕はどうだっただろう。

東筆頭の若元春が10勝を挙げたのが光る。特に2日目の照ノ富士戦は真っ向から当たって左四つで攻めて寄り切った。あの大きな横綱にまともにぶつかって寄り切りで勝つなどなかなかできることではない。この白星が評価されて殊勲賞を獲得している。今場所は得意の左四つが冴えた。そして、よく攻めた。右のおっつけも強烈だった。相手が浮いたり、横を向いたりしていたくらいだ。そのくらい攻めが厳しかった。まるで先場所のうっ憤を晴らすかのようだった。

西筆頭の熱海富士は初の上位ということもあり、初日から4連敗。いきなりの上位だからやっぱり無理かと思ったら中盤以降盛り返す。攻めるし、攻められたも下がらない「らしい」相撲で粘ったが6勝9敗で終わった。それでも右四つになったときは強い。そして、伊勢ヶ濱部屋の伝統か、うまさもある。ちょっとした小技も使えるのがいい。

西2枚目の阿炎は8勝と勝ち越した。場所前に元寺尾で師匠の錣山親方が亡くなるという悲しいことがあった。それだけに奮起が期待されたが、なんと初日から5連敗。でも、相撲内容は阿炎らしい腕がよく伸びる突っ張りで、それでも勝てない日々が続いて本人もさぞ歯がゆかっただろう。それが6日目に豊昇龍を破り、1日おいて中日から7連勝で勝ち越した。その間、やっぱり持ち前の突っ張りで攻め続けた。これがよかった。師匠への恩返しができたと思う。

ちょっとかわいそうだったのが西7枚目の朝乃山だ。先場所は中日まで休んで後半戦からの衆生だったが、満を持して出てきた今場所は初日から7連勝で単独トップ。これからというときに中日の玉鷲戦で足の指を痛めて無念の休場。しかし、ここで千秋楽まで休んでしまうと7勝8休で負け越してしまう。昔、横綱栃錦が平幕時代に7連敗8連勝というのをやってのけているが、今回はその逆になりかねない。だからか(多分そうだろう)、13日目から再出場して2勝1敗で9勝3敗3休として勝ち越した。今場所は優勝争いに絡めそうだっただけに悔いが残る。心配なのが、ここ数場所の朝乃山は皆勤場所が少ない。年齢的にも怪我が治りにくくなるだろうから体の手入れは念入りにしてほしい。

西8枚目の平戸海は8勝7敗と千秋楽で給金を直した。成績は地味だけど、着実に力を着けてきている。体格は小さいほうの部類に入るのに相撲は真っ向から当たる正攻法。押しでも四つでも相撲が取れるのがいい。来場所は上位と当たる地位になりそうなので楽しみだ。

東10枚目の玉鷲は8勝と勝ち越した。10日目までは7勝と好調だったこともあり、三役との対戦が組まれ、終盤は1勝4敗と尻すぼみ。それでも押しは強烈で、突き落としや小手投げも強い。中日の朝乃山戦はなかなか見応えがあった。

西11枚目の王鵬は10勝。中盤で3連敗はあったものの、攻める相撲が目立った。時折り引く場面も見られたが、寄り、押しを使い分けての攻めは考えての取り口のように思えた。ときどき残念な力士と揶揄している私だけど、今場所の王鵬は来場所以降期待を持たせるものだったと評価する。

西14枚目の阿武咲も10勝。こんなところにいる力士ではないのだが、膝の怪我もあって成績は安定しない。しかし、今場所は突き押しが冴え、2日目から8連勝で勝ち越し。以降は上位との対戦が続いて一度も勝てず4連敗。しかし、上位戦が終わった残り2日は連勝して2桁に乗せた。やっぱり鋭い出足で上位を翻弄してほしい。

そして、西15枚目・新入幕の大の里だ。11勝で終わってみれば、霧島と同じ優勝次点の成績であった。こちらも好成績で10日目から上位戦が3日続いて3連敗。でも、それが終わると阿武咲と同じく残りを全部勝って11勝とした。いかにも柔らかそうで、寄りでも押しでも相撲が取れる。しかも、しっかり腰が割れている。まるで遠藤が上がってきたときの相撲を見るようだ。基本がちゃんとできている証拠だ。ただ、上位にはまだ通用しないのは今場所の相撲を見ると一目瞭然だ。その辺を修正してくると脅威となるだろう。楽しみが力士がまた一人増えた。

残念なお知らせ。東16枚目・宝富士と西17枚目・碧山は来場所、十両に落ちる。宝富士は緒戦は粘れるけど、相撲が長くなるとあっさり土俵を割ることが増えてきた。差し手争いで負けて相手十分になったり、前へ落ちたりこれまで見られなかった相撲も目につく。ひと場所で戻ってきてほしい。碧山は初日から膝がまったく動いていなかった。これではいくら太い腕の突っ張りが武器とはいえ相手を圧するには至らない。結局、6連敗したところで休場、1勝もできずにひと場所で十両に落ちることになった。

今場所も悲喜こもごもありましたが、終わってみれば大盛り上がり。最後まで横綱三役で優勝争いをした場所はいつ以来だろうと思うほど面白かった。来場所は新大関・琴櫻の誕生で4大関になる見通しだ。この記事が出る頃には大関が誕生しているだろう。1横綱4大関…豪華番付に恥じない場所にしてほしい。

今回はこんなところで。