令和5年大相撲名古屋場所 まとめ
これまで場所後の記事を「総括」としていましたが、仰々しいので「まとめ」に変えます。あまりいいイメージに取られないこともあるので。
終わってみれば、今場所は話題が豊富だった。場所前の関心と終盤に入ってのそれは違ってはいたけど、最後まで盛り上がった。
今場所は東関脇・豊昇龍が12勝3敗で初優勝を飾った。これで直近3場所の成績がいずれも関脇で10、11、12勝の合計33勝と大関昇進の目安に到達したことから場所後の大関昇進を確実とした。横綱大関が振るわなかった中、事実上の番付最上位の豊昇龍がその責任を一身に背負った格好で優勝したことは大きい。
今場所の豊昇龍はとにかくよく攻めていた。体勢は常に低く、相手に攻めさせない。攻められても強靭な足腰で残し、逆転するなど安定感があった。負けた相撲はともかく、勝った相撲でヒヤッとしたのはあまりなかったように思う。スピード感あふれる相撲はおじさんの元横綱・朝青龍を彷彿とさせる。先輩大関・霧島としのぎを削ってほしい。体型は似ているものの、相撲のスタイルはまるで異なる。霧島の静に対して豊昇龍の動といった感じか。これは朝青龍がいた頃の白鵬と対をなすと思っている。
それでは上から順に見ていこう。
4日目から途中休場した照ノ富士は2日目に錦木に投げられた際に軽いなと思ったら、翌3日目の翔猿には動かれて付いていけず、膝を痛めてしまった。おまけに腰の椎間板ヘルニアと診断されて、踏んだり蹴ったりだった。この調子だと早ければ今年のうちに引退するのではないかと心配している。
続いて大関。貴景勝は全休。新大関・霧島は場所前にろっ骨を痛めたこともあり、4日目から出場という異例の展開で、終盤3連敗もあり最終的には6勝7敗2休で負け越し。照ノ富士の休場と入れ替わりだから申し合わせての出場ではないけど、霧島の決断がなければ横綱大関不在となっていたところだ。が、これで2人ともカド番で来場所を迎える。霧島の相撲は悪くはなかったけど、終盤に上位と当たると万全でないこともあってか、いい相撲は取れていなかった。
関脇陣は3人とも大関獲りという滅多にない場所ということで盛り上がりを見せた。中日までは豊昇龍1敗、大栄翔と若元春が2敗と悪くなかった。しかし、後半は明暗が分かれ、最終的には豊昇龍12勝、大栄翔と若元春は9勝と期待外れに終わった。せめて10勝していれば、来場所に繋がったかもしれないけど、これでは一からになりそう。しかも、14日目に2人とも立ち合いに変化を見せたので心象も悪くなっているだろう。今場所のことは忘れて、来場所以降は自分の相撲を取ってもらいたいものだ。
小結は琴ノ若11勝、阿炎6勝となった。阿炎は終盤に5連敗したのに対して琴ノ若は最後は6連勝して敢闘賞も受賞した。琴ノ若は攻めが厳しく、豊昇龍と大栄翔に勝っているのもいい。阿炎は得意の突っ張りがいいときと悪いときがあり、思うような相撲が取れなかった。昨年の九州で初優勝して以来続けていた連続勝ち越しは4場所でストップした。
平幕はどうだっただろうか。
まず、前半から中盤を引っ張ったのは東筆頭の錦木だった。安定感抜群で、横綱か大関かというような相撲で他を寄せ付けなかった。初日の霧島には不戦勝で、他の役力士には琴ノ若以外には全員勝ち、優勝するのではないかと思ったほどだ。しかし、終盤戦は格下ばかりの相手に対して4連敗、結局10勝で終わった。残念。でも、自身初となる三賞、殊勲賞を受賞した。西筆頭の翔猿もよかった。相手からうまく距離を取るスタイルで照ノ富士に勝ち、霧島にも土を付けた。既に勝ち越していたけど、千秋楽にも勝って9勝を挙げたことで、来場所は錦木とともに三役へ上がるのはほぼ確実だろう。
西3枚目の明生は4勝7敗の後がない状況から4連勝して勝ち越した。勝った相撲は低い姿勢からの攻めが光った。そして、東4枚目の朝乃山。7日目の豊昇龍戦で上手投げを食ったときに左の上腕二頭筋の部分断裂で休場したが、12日目から再出場し、そこから全部勝って勝ち越した。これは立派だ。私はいいところ、2勝2敗程度で大きな降下にならない程度には勝つだろうと思っていたのだけど、復帰後の相撲はたいへん厳しかった。14日目の霧島戦や千秋楽の若元春戦などは圧力が強く、相手にまったく相撲を取らせなかった。なんだ、こんな相撲が取れるのかと思わせる相撲内容だった。これは怪我の功名なのだろうか。
東5枚目・平戸海、東6枚目・北青鵬、西6枚目・王鵬はまだまだ力不足。それでも、平戸海は動きがよかった。それだけに千秋楽の休場は悔しかっただろう。北青鵬は相撲が読まれている感じがする。やはり、横から攻められると弱いようだ。体格は違えど、先に引退した逸ノ城と似ているのかもしれない。千秋楽の翠富士戦など腰を入れて投げを打った小兵の翠富士にきれいに、そして軽々と投げられていた。人を喰ったような棒立ちの相撲はそろそろ卒業したほうがよさそうだ。王鵬は四つでいきたいのか押しで攻めたいのかがよく分からない場所だった。型にはまれば強いけど、目論見が外れたらもろい。そうなったときにどう立て直すかが課題だろう。
面白かったのが西8枚目の玉鷲で、中盤戦で4日連続寄り切りで勝ったことだ。玉鷲というと突き押しや突き落とし、小手投げのイメージだけど、まさか上手を引いての寄り身を見せたのだ。これは相手も面食らったことだろう。それで負けたとは思えないけど、あの体格で寄られると圧力もものすごいのだと思う。
悔しかったのは西9枚目の北勝富士だろう。10日目まで9勝1敗。終盤は上位と当たらされたけど、星の潰し合いの中、3勝2敗で終えて決定戦に臨んだ。特に12日目に優勝した豊昇龍に勝った相撲は終始攻め続けていてよかった。圧力が勝っていた。今場所の活躍が評価されて敢闘賞を受賞した。
東15枚目・竜電や東16枚目・遠藤も10勝して上へ戻りそうでよかったのだけど、下位においては新入幕の3人、東13枚目・豪ノ山、西14枚目・湘南乃海、そして幕尻西17枚目・伯桜鵬がそろって2桁勝利を挙げたのはベテランの活躍が霞んでしまうような活躍ぶりだった。中でも伯桜鵬は千秋楽まで優勝争いに絡み、最後は豊昇龍と対戦した。負けて109年ぶりの新入幕優勝はならなかったが、立派な成績を収め、敢闘賞と技能賞を獲得した。19歳とは思えない落ち着きぶり、土俵態度、所作も好感が持てる。師匠が白鵬の宮城野だけにちょっと意外でもある。懸賞を受け取るときの手刀を切る姿がいい。ゆっくり味わっているかのようだ。また、あとの2人は勝てば三賞という条件付きのもと、ともに勝って敢闘賞を受賞した。プレッシャーに勝ったことはこれからも活きてくるだろう。豪ノ山は豪栄道の武隈が育てた初の関取だが、取り口は師匠と違って押しが主体。よく攻めていた。また、湘南乃海は懐の深さを活かしたスケールの大きい相撲が目立った。伯桜鵬の左肩を見ていると痛々しいけど、みんな怪我をしないよう精進してほしい。
千秋楽は豊昇龍-大栄翔の割を崩して優勝争いを優先させたのはよかった。先の取組で北勝富士が勝って決定戦になったのもよかった。三賞が大盤振る舞い(7人)されたのは場所を盛り上げた力士が多かったので当然のことだろう。来場所は豊昇龍が大関へ上がり、残った関脇2人は我こそはと再起を期す。4場所連続小結だった琴ノ若はついに三役で初の2桁11勝を挙げたので、来場所はいよいよ関脇に上がりそう。阿炎が負け越したので空位となりそうな小結には東西の筆頭・錦木と翔猿が上がるものと思われる。錦木が新三役となると初土俵から所要103場所での昇進でこれは歴代第3位という超スロー出世になる。
と、来場所も話題がもりだくさんな場所になりそうだ。今回はこんなところで。
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